おのづから腕組むこともそぞろ寒
坊城としあつ
今週、だいぶ寒い日が続いたので、いよいよ秋の紅葉が詠めると期待したが、俳句界では本日、11月から冬に入るので、結局、秋を充分に味わえずに終わった気がする。先週は夏日の大阪であり、今週は、そぞろ寒の長野県佐久平へ出張した。
先週、大阪へスーツの上着とベストを着て出張し、現地が夏日だったので暑い思いをしたが、今週は長野へ同じ出立ちで出張し寒い思いをした。前日に長野県の最高気温は18℃の予報で、東京と同じ気温だったのでコートを持たずに出かけた。北陸新幹線に乗車したインバウンドの旅行客が軽装だったので自分の服選びは正しかったと思ったが、旅行客のほとんどが軽井沢のアウトレットモールに吸い込まれていった。おそらく、秋冬ものをそこで調達するらしい。私はその次の佐久平駅で下車し、駅前でタクシー待ちをしていたら、目の前の電光掲示板に「気温12℃」と表示されていた。長野県と言っても、佐久平は山間の街で山から吹き下ろす風が冷たい。ちょうどお昼時でタクシーがなかなか捕まらず、15分ぐらい気温12℃のなか、コート無しで立っていた。
おのづから腕組むこともそぞろ寒 坊城としあつ
そぞろ寒とは、なんとなくそぞろに寒さを覚えることをいい、気持ちの上で感じる晩秋の寒さのことである。掲句は、自然に腕組みすることもそぞろ寒だなぁということだろうか。実際にタクシーを待つ私はどうだったかと想起すると、腕組みしながら肩をすぼめて小刻みにステップを踏んでいしていたように記憶している。ただ、そぞろ寒より「身に入む」の方が正しかったかもしれない。
佐久平の駅近くに信州蕎麦の有名店があるが、今回は時間の都合上、立ち寄ることができなかった。この店は大盛りを頼むと食べきれない程のボリュームがあるので、店内に注意書きがされている。秋の季題「新蕎麦」を逃したが、駅構内にソフトボール大の「林檎(こちらも秋の季題)」が3個610円という破格な値段で売られていた。最後にずっしりとした秋を手に入れ、ほっこりとした気持ちになり、家路へと向かった。
(塚本武州)
【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。国立市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。
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