神保町に銀漢亭があったころ【第3回】青柳飛

The Milky Way Pub

青柳飛(「秋」「天為」同人)

銀漢亭は私にとって東京でのhome(家)であり、turf(「しま」)でした。日本に着いたらホテルに荷物を置いてまず行く所。たくさんの人に会えた所。父が亡くなって色々あった時の愚痴をとことん聞いてもらった所。良く笑った所。そして勿論お酒をたっぷり飲んだ所でした。私は東京生まれの東京育ちですが、日本に住んでいた20数年よりも、その後の何倍もの時間を過ごすことになったアメリカに移ってからの方が神保町に行った回数は圧倒的に多い。銀漢亭があったからこそと言えます。

「東京の神保町という所にね、俳人が経営し、お客のほとんどが俳人のThe Milky Way Pubってのがあるのよ」とアメリカの英語俳句の仲間達に自慢したら、「日本に行く時期がフェイと重なったら是非連れてってくれ」と頼まれ、銀漢亭での忘れられない時間を過ごした俳人が何人もいます。銀漢亭閉店の報を受けたと伝えた時も全員から「伊那男さんによろしく」「日本で一番楽しい時間を過ごせた」とお礼のメッセージを頼まれました。銀漢亭は神保町というスペースから広く俳句の世界に光を投じたlighthouse(灯台)でもあったと思います。

(2016年12月21日撮影。カウンターに勤務していた小石嬢が「クリスマスにはこういう恰好で仕事する」と言ったサンタガールの衣装を何故か私も着せてもらった時の一枚)

一番最初に銀漢亭に連れて行ったのは、ニューオリンズの大学で教鞭を取り、一茶の研究家・翻訳家でもあるデービッド・L。年齢的にも私とつり合いが取れていたせいか、二人で銀漢亭の扉を開けたら常連の一人の森羽久衣さんに「フェイさんの旦那さん?」と聞かれて苦笑いしましたっけ。元米国俳句協会会長でもあるリーは金持ちの歯医者でもありましたから、酔っ払った勢いでカウンター席にいた全員に「僕の驕りだ!」と大判振る舞いを。本当はカウンターの端に座っていたうさぎ嬢だけを奢りたかったようですが(笑)

最後に一緒に行ったデビーは、伊那男さんが出してくださった蛍烏賊に一瞬ぎょっとした顔をし、「春の季語だから」と無理やり食べさせたら「オイシイ」と目を丸くしていました。東京に長く住んでいるアイルランド人のデービッド・Bには「フェイは銀漢亭の『亭』をpub(居酒屋)って訳してるけど僕は bower(東屋)って訳すべきだと思うな」と言われました。確かに銀漢亭にはThe Milky Way Bowerと呼ぶべき温かさがありました。同年代ながら俳句的には大先輩でもある佐怒賀正美氏が言っていたように「伊那男さんの人柄」が大きかったんだと思います。

(2017年8月7日撮影。ニューオリンズより来店のデービッドとへべれけ中)

【執筆者プロフィール】
青柳 飛(Fay Aoyagi)
東京生まれ。1980年代よりアメリカに住み、2003年に米国市民権を取得。サンフランシスコ在住。日本語の俳人としては「天為」と「」の同人として活動していますが、英語俳句の世界の方が有名かも? 2016年から2019年までの4年間 President of Haiku Society of America(米国俳句協会会長)としてアメリカ各地を飛び回りました。

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