【春の季語(晩春=4月)】春深し
「桜」の時期も過ぎ去って、いよいよ深まった感じをいう。実際には「四月」後半ごろのこと。
照りつくような日差しを感じる「夏隣」や「夏近し」よりは、まだ春らしい感じが残っている時期。
連用形で「春深く」と副詞的に用いられることもある。
用例は〈春ふかし伊勢を戻りし一在所 太祇〉などと古い。
【春深し(上五)】
春深し鳩またくゝと、くゝと啼き 久保田万太郎
春深しおのれ抱かへてよろめきぬ 河原枇杷男
春深き混沌君われ何処へ行く 三橋敏雄
春ふかく芋金色に煮上りぬ 桂信子
春深し稀ににはとり死者に肖て 攝津幸彦
春深く剖かるるさえアラベスク 九堂夜想
【春深し(中七)】
雲をみてをり春の雲ばかりかな 今井杏太郎
【春深し(下五)】
うつしゑの眼とじつと逢ふ春深し 富安風生
美しき人は化粧はず春深し 星野立子
終へし旅これよりの旅春深し 稲畑汀子
灯してより母の家春深し 永方裕子
カステラと聖書の厚み春深し 岩淵喜代子
匙入れて皺むスープや春深し 奥坂まや