【新年の季語(1月)】初夢
古くは立春を正月としていたため、「節分の夜から立春の朝に見る夢」を初夢と呼んでいた。文献での初夢の初出は、鎌倉時代の『山家集』。
年くれぬ春来べしとは思ひ寝むまさしく見えてかなふ初夢
(年も暮れ、新春がくる喜びを思って寝ていると、初夢に霞たなびく春の景色を見た)
が、 明治の世に改暦がなされると「大晦日の夜から元旦にかけての夢」を指すようになった。さらに、大晦日は「寝ずに神様を迎える」人もいるということで、「元日の夜から2日にかけての夢」を初夢とする向きも結構ある。
【初夢(上五)】
はつ夢や正しく去年の放し亀 言水
初夢に古郷を見て涙哉 一茶
初夢や金も拾はず死にもせず 夏目漱石
初夢の扇ひろげしところまで 後藤夜半
初夢に見しふるさとは明治の世 瀧春一
はつゆめのせめては末のよかりけり 久保田万太郎
初夢を見よといひつゝ子守唄 星野立子
初夢のあひふれし手の覚めて冷ゆ 野澤節子
初夢のわが顔こちら向きにけり 細川加賀
初夢にドームがありぬあとは忘れ 加倉井秋を
初夢に見し踊子をつつしめり 森澄雄
初夢の陳腐に腹を立てゝをる 川崎展宏
初夢の大波に音なかりけり 鈴木真砂女
初夢のなかをどんなに走つたやら 飯島晴子
初夢の中より外へ出てしまふ 蔦三郎
初夢の手と手離れしとき目覚む 小原啄葉
初夢の師にお辞儀するところまで 黒田杏子
初夢をさしさはりなきところまで 鷹羽狩行
初夢のつづきの如く晴れにけり 稲畑汀子
初夢の母若かりしことあはれ 高橋睦郎
初夢やわが方舟に画布と猫 大木あまり
初夢のつづく曠野に父のこゑ 石寒太
初夢もまた平凡でありにけり 岩岡中正
初夢の中も詫び入ること多し 大野里詩
初夢のいくらか銀化してをりぬ 中原道夫
初夢に何か忘れてきたやうな 松野苑子
初夢のつひにここまで来て手ぶら 山田耕司
初夢の辻褄合つてしまひけり 片山由美子
初夢の我はピアノを弾いてをり 蜂谷一人
初夢につかみて声のやうなもの 佐怒賀正美
初夢や林の中の桜の木 小澤實
初夢をわすれ戦火をわすれざる 仙田洋子
初夢につながれている兎の眼 四ッ谷龍
初夢のくちびるに来し檜の秀 恩田侑布子
初夢の母は指から糸出して 河西志帆
初夢を零れ落ちたる泪かな 五島高資
初夢の一筆書きのやうなもの 津川絵里子
初夢や耳深くして人の波 谷さやん
初夢の着地の確と決まりたる 菅敦
初夢のあとアボガドの種まんまる 神野紗希
初夢の途中で眠くなりにけり 野口る理
初夢になにかの店でなにか買う 久留島元
【初夢(中七)】
雑煮食ふてよき初夢を忘れけり 正岡子規
犀・象の初夢なれば明日もまた 城取信平
肌触れさうな初夢の錦鯉 齊藤美規
妻を呼ぶ声に初夢覚めにけり 茨木和生
息触れて初夢ふたつ響きあふ 正木ゆう子
【初夢(下五)】