いづくともなき合掌や初御空
中村汀女
今日から仕事始めですね。少し早い正月気分の切り上げになりましたが、ご紹介する句は元日の句です。
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初御空とは、元日の大空のこと。ほかに初空とも言う。「はつみそら」という言葉はなんて美しいのだろう、と声に出すたびに思う。
空を讃える「み」という音の響きがとても好きだが、それは「美」という音にも通じていて、華やいだ美しさを感じさせてくれる。
新しい年の始まりの空と思うと、その空の青も、そしてその空を見上げる人の心も常とは違って見えてくる。
とりわけ雲一つない好天の初御空に恵まれると、それだけであたりにまで淑気が満ちてくる心地だ。
東京の初御空は、たいていが晴れている。
今年もおだやかな晴天だった。幹線道路を往来する車も減るので、空気も心なしかきれいに感じる。
掲句の初御空もこの上なく清らかな青空だったのだろう。
年の始まりの空の清らかさにありがたさが溢れてきて、思わず合掌したのである。
初詣の神社などへの合掌ではなく、空という大きなものへの合掌。
この「いづくともなき」がなんともいい。
頭上に広がる澄んだ空を感じながら、ただ静かに目を閉じて手を合わせている。
今年は感染症拡大防止の自粛により、神社などへの参拝を控えた方も多くいたことだろう。
「いづくともなき合掌」
この心のあり方が、今年はまた違ったかたちで、心に響いている。
(日下野由季)
【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』、『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。
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