啓蟄やATMにコロッケと 平きみえ【季語=啓蟄(春)】

啓蟄やATMにコロッケと

平きみえ

挙句は「第一句集 父の手」平きみえ(象の森書房・2016年刊)より。

コロッケは手にさげているのだと思う。用事の前にコロッケを買ってしまったとは、とても可愛らしい。
熱を帯びた白いビニール袋は、キャッシュカードを取り出す時も、下ろす金額を打ち込む時にも、下ろしたお金を
取り出す時にも不便だろう。コロッケ買うの、後でもよかったのに。
きっと、買うつもりはなかったのだけれど、食べたくなってしまったのだ。たぶん、お肉屋さんの揚げたてのやつを。
またこの人は、今が啓蟄であることを意識していて、自分の生活のことも、今、意識している。気候がかわり、
生き物が動き出す中で、わたしはどうしているかというと、コロッケを食べたくて、コロッケを買って、生活をしている。そう思って、そんな自分のことを少し、面白がっている。

包丁は小さめが好きあかのまま 平きみえ

平きみえさんは、伊丹にある柿衞文庫で開かれた俳句塾「也雲軒(やうんけん)」にて俳句を学ばれた。
また、平さんはかつて伊丹で料理屋さんの女将もされていて、俳句を知らない人も女将としての平さんを知っている。

世の中はものものしい。SNSをひらけば多くの人が政治の話をしている。わたしはというと、今日母と何を食べようかということを考えている。社会に期待するよりも、目の前の生活をちゃんと行うことで、わたしは精一杯だ。
できるだけただしく生きようと思っているし、俳句は相変わらずつくっていきたい、とは思う。
俳句を作ることは何かのためではなく、自分のために、ということを、忘れないようにしたい。

会い出したらよく会いますねえコスモス 平きみえ

今日も夜ごはんの買い物がてら伊丹の街を歩く。街を歩けば平きみえさんに出会うことがあって、私は会釈と共に手を振り、平さんは振りかえしてしてくれる。

(内橋可奈子)


【執筆者プロフィール】
内橋 可奈子(うちはし・かなこ)
1983年生まれ。兵庫県在住。「伊丹市俳句協会」会員。「窓の会」常連。



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