優曇華や昨日の如き熱の中
石田波郷
「山王戦を終えてその後の花道を想像できる句だと思った。山王戦は8/3らしいので時期はずれてしまうが、療養中にいつもあの日の熱気を昨日のことのように思い出していたのではないか。短期間で身につけたものがどんどん失われていく儚さ。さて優曇華は吉兆か凶兆か。」(ぐさん)
「優曇華」は手元のホトトギス新歳時記によると〈草蜻蛉の卵で、草木の枝葉のほか、電灯の笠、天井の隅、壁、障子などにも産みつけられる。二センチほどの白い糸のような柄の先に楕円形の卵のついたのがゆらゆらとかたまっていて、一見、黴の花のように見える〉とありました。さらにネットで検索したらこんな画像が。
※虫が嫌いな方はご注意ください。
https://yurinoki.main.jp/musi2/yotubosikusakagero.html
めちゃめちゃ儚いビジュアルですね。孵化後はともかく卵の時は夢のように綺麗です。「あの日の熱気を昨日のことのように思い出し」ながら、夢だったようにすら思えてくる。あの日が遠くなるにつれ、あれは本当だったのだろうか、みたいな感情が出てもおかしくない。そんな雰囲気が優曇華にはあります。さらに流川が全日本ジュニアに選ばれたことを知ってライバル心がメラメラしていました(新装再編版20巻245〜246ページ)。漫画には描かれていないけれど、療養中には、焦る気持ちもあったでしょうし、「短期間で身につけたものがどんどん失われていく儚さ」が、優曇華の儚いビジュアルにぴったりです。
「優曇華」は、6月ごろに見ることができるそうなのだけど、6月は、ちょうどインターハイの神奈川県予選の最中でした。だとすると、山王戦だけではなく、予選の時のことも思い出していそうです。一人だけ合同合宿練習から外れて、シュート2万本の練習をしていた時の頃とか(新装再編版14巻171〜239ページ)。優曇華が草蜻蛉の卵だということも、当時、今よりもさらに伸び代しかなかった花道の姿に重なります。
一方で、仏教での優曇華は三千年に一度花開くという伝説上の植物のことです。草蜻蛉の卵を見た人が優曇華に違いないと思って、草蜻蛉の卵を優曇華と呼ぶようになったと言われています。この花の出現は吉兆とも凶兆とも言われているそうです。ぐさんも、「さて優曇華は吉兆か凶兆か」とおっしゃっていますが、私は吉兆と考えたい。怪我を乗り越えた花道が大活躍して、三千年に一度のプレイヤーと言われてほしいです。
ぐさん、素敵なスラムダン句をありがとうございました!
(岸田祐子)
【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。
【岸田祐子のバックナンバー】
〔1〕今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子
〔2〕自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波
〔3〕朝寝して居り電話又鳴つてをり 星野立子
〔4〕ゆく春や心に秘めて育つもの 松尾いはほ
〔5〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔6〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
〔7〕彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に 今井千鶴子
〔8〕やす扇ばり/\開きあふぎけり 高濱虚子
〔9〕人生の今を華とし風薫る 深見けん二
〔10〕白衣より夕顔の花なほ白し 小松月尚
〔11〕滅却をする心頭のあり涼し 後藤比奈夫
〔12〕暑き日のたゞ五分間十分間 高野素十
〔13〕夏めくや海へ向く窓うち開き 成瀬正俊
〔14〕明日のなきかに短夜を使ひけり 田畑美穂女
〔15〕ゆかた着のとけたる帯を持ちしまま 飯田蛇笏
〔16〕宿よりは遠くはゆかず夜の秋 高橋すゝむ
〔17〕夕立の真只中を走り抜け 高濱年尾
〔18〕苺まづ口にしショートケーキかな 高濱年尾
〔19〕汗の人ギユーツと眼つむりけり 京極杞陽
〔20〕冷汗もかき本当の汗もかく 後藤立夫
〔21〕ここも又好きな景色に秋の海 稲畑汀子
◆映画版も大ヒットしたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。連載当時に発売された通常版(全31巻)のほか、2001年3月から順次発売された「完全版」(全24巻)、2018年に発売された「新装再編版」(全20巻)があります。管理人の推しは、神宗一郎。