【第4回】
写真と俳句の流れと書籍
写真と俳句のコラボレーションの最初は誰なのか、自分でも調べてみて正直なところよく判っていません。永井荷風による写真と俳句は昭和12年発行の私家版の「濹東綺譚」に収録、石田波郷の「江東歳時記」の書籍化はは昭和41年、本格的な活動と言える伊丹三樹彦による写俳運動は昭和45年からです。
それ以前については、大正から昭和初期にかけて、写真と俳句を合わせた絵葉書の発行がありました。江戸時代に発句と合わせる俳画が存在していますから、写真が一般化することにより俳句と合わせる発想はあり得ると思います。そういえば以前ネット上で「俳句研究」の誌面に寺山修司の写真と俳句が掲載されていた、という一文を目にしましたが、これは未確認です。その頃、寺山修司に詳しい澤田和弥さんに聞いてみても判りませんでした。どなたかご存知の人がいらっしゃればせひ教えて下さい。
インターネットとデジタルカメラの普及により、2005年頃から個人ブログでの写真俳句や公募なども増えてきたように思います。その一方、俳句の世界ではあまり広まらず、俳句の総合誌でも扱う機会はすくないのが現状です。
以下に写真と俳句のコラボレーションまたはその要素があるものを紹介します。同一著者で複数の出版物がある場合は、とりあえず初出のもののみ掲載。△は倉田未所有。年代をひとマス空けてあるのは書籍以外の写真と俳句関連のエピソード。
明治時代 可能性はあるが未確認
大正から昭和初期にかけて
「北陸霊刹 那谷寺勝景絵端書」(絵葉書、写真と俳句または短歌)
「国立公園 箱根之俳句」(絵葉書、江戸期の句、谷脇素文/挿絵、上野彦次郎?/写真)
1937年 △「私家版 濹東綺譚」(永井荷風)
1966年 「江東歳時記」(石田波郷) 書籍
1970年(昭和45年)伊丹三樹彦による写俳運動はじまる
1984年 「伊丹三樹彦写俳集 隣人 ASIAN」(写俳集はこの後第18集まで出版)
1990年 「写真・山頭火 第一集」(竹内敏信/写真) 第四集まであり
1991年 「星花火 夏目雅子」(夏目雅子を撮影した写真と彼女の俳句を収録)
1997年 「田川洋吉写真・俳句集 野の花讃歌」
1997年 「「おくのほそ道」をゆく」(植田正治/写真、黒田杏子/文)
1998年 「写眼彷徨 福谷和子写俳集」(福谷和子)
2001年 「二十世紀最終汽笛」(浅井慎平)
2001年 △「双樹開花2001 双樹の会30周年記念写俳集」
2002年 「森になった街 写真と俳句でつづる別子銅山」
(夏井いつき/俳句と文、渡部ひとみ/写真)
2002年 第5回俳句甲子園(敗者復活戦の課題が写真と俳句)
2003年 「フォト&俳句 つるのこ柿」(あおきあきお)
2004年 「寺ねこ」(柳沼吉幸/写真、淡海うたひ/俳句)
2004年 「コレカラ カマクラ物語。」(黛まどか/俳句と文、原田寛/写真)
2005年 「“五・七・五”のバトル 俳句甲子園」(愛知新聞社)
第5回、6回大会の、敗者復活戦の投句&写真を収録
2005年 「森村誠一の写真俳句のすすめ」(森村誠一)
2006年 「雄子と点子の俳句と写真とhaiku-ガゼル編」(堺雄子、堺点子)
2006年 「恐竜✕ビーナス」(竹浪明)
2006年 「俳句・写俳集 百日紅」(真鍋郁子/俳句、桜井道子/写俳)
2007年 「パソコンですぐできる写真俳句 あなたも今日からフォト俳人」
(毎日新聞社)
2007年 「俳句写真集 亭亭舎」(諸岡正明)
2007年 「かつみの俳写ワールド」(今井勝美)
2008年 「写真で俳句をはじめよう」(如月真菜)
2008年 「誰かいませんか」(青嶋ひろの/編、 板東寛司/写真)
2009年3月 NHK BS「フォト575」放送開始 2012年番組終了
2009年 「俳写復活選」(大沢章伸)
2009年 「中谷吉隆のフォトハイ句!読本」(中谷吉隆)
2010年 「猫の恋」(石寒太/編、岩合光昭/写真)
2010年 「NHKカシャッと一句!フォト575完全ガイド」(NHK出版)
2010年 「写真俳句集 秋雨」(藤井樹平)
2011年 「凛の世界」(上杉満生/写真、大高 翔/俳句)
2013年 「猫と一茶」(信濃毎日新聞社)
2014年 「写俳人の誕生」(岡井耀毅)
他にもまだありますが、数年前までの写真と俳句の主だった出版物はこんな感じでしょうか。俳句の句集や関連出版物に比べると比較にならないほど少ないのは確か。同人誌などの定期刊行物と、コラボレーションというよりレイアウト要素の書籍については今回除外しています。さらに資料と情報を蒐集中です。
本日のまとめ
○写真と俳句のコラボレーション、いまの時点で確認できている最古は、大正から昭和の初期に発行された絵葉書。
○永井荷風自身の写真と俳句を収録した「私家版 濹東綺譚」が戦前、新聞連載を書籍化した石田波郷の「江東歳時記」が古い(新聞連載は昭和32年から約1年間)。
○写真と俳句コラボレーションの活動としての嚆矢は伊丹三樹彦か。
○散発的な写俳要素の出版物は以前からあるが、インターネットとデジタルカメラの普及と共に広まったと思われる。
【執筆者プロフィール】
倉田有希(くらた・ゆうき)
1963年、東京生れ。「里俳句会」を経て現在は「鏡」に所属。
「写真とコトノハ展」代表。 ブログ「風と光の散歩道、有希編」
【倉田有希の「写真と俳句チャレンジ」バックナンバー】
>>第3回 写俳亭、伊丹三樹彦
>>第2回 石田波郷と写真と俳句
>>第1回 写真と俳句
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