秋麗の柩にもたれ眠りけり 藤田直子【季語=秋麗(秋)】


秋麗の柩にもたれ眠りけり

藤田直子
『秋麗』より


10月12日、私が所属する結社「秋麗」の15周年記念大会が開催された。

朝から穏やかによく晴れて、まさに秋麗なる一日。お天気まで言祝いでくれているかのようだった。

掲句は、「秋麗」の藤田直子主宰の代表句である。

柩に眠るのはご夫君、当時主宰は51歳で、今の私よりも若い齢で配偶者を亡くしたことを思うと、その無念さは計り知れない。

自註には「夫の実家の菩提寺、名古屋の西別院で葬儀を執り行うことになり、東名高速を走った。秋麗の光が私たちの車を包んでいた。」とある。

看取りから葬儀までの慌ただしさの中、疲れもあってしばし眠ってしまったのだろう。あと少し夫の存在を近く感じておきたいという妻の切なる願い、深い哀しみを秋のやわらかい日差しが包み込む。崇高な宗教画のようにも感じられる一句だ。

やがて掲句の「秋麗」が句集名、そして結社名となる。一誌を立ち上げる原点が、きっとここにあるのだろう。創刊時の藤田主宰の句に〈一舟に立ちてひとりの白露かな〉〈詩のため何捨つべしや葛の花〉などがあり、いずれも強い覚悟が伝わってくる。それは亡き夫への思いそのものなのかもしれない。

数日前から、街には金木犀の甘い香りが広がっている。

ひとにも自分にも優しくなれるよう、胸いっぱいに吸い込む。

黒澤麻生子


【執筆者プロフィール】
黒澤麻生子(くろさわ・まきこ)
1972年千葉県生まれ。1999年「未来図」入会。2004年未来図新人賞受賞。2005年「未来図」同人。俳人協会会員。2009年「秋麗」創刊に参加。2017年刊行『金魚玉』(ふらんす堂)により第41回俳人協会新人賞・第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。2021年未来図後継誌「磁石」創刊に参加。現役ケアマネジャー。


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