◎酒米は「季語」のようなもの?
――琵琶湖はかつて芭蕉が愛していて、それこそ〈唐崎の松は花より朧にて〉とか〈行く春を近江の人と惜しみける〉なんて句を残してるわけですけど、俳句との縁を「浪乃音酒造」さんがつなぎとめているわけですね。
中井 近江にも芭蕉の跡を訪ねていろんな方が訪ねてきてると思うんですけど、高濱虚子って俳人は、ルールを決めたうえで俳句を広めたという面があると思うんで、ぼくらはそれに則って詠んでいるわけですけど。歴史にはそんなに詳しくないんですが、昔はもっといろいろなかたちで詠まれてきたんとちゃいますか。
――それこそ虚子が「古壺新酒」という言葉で俳句の真髄を語ったことがあるんですね。ぼくが見たところでは1930年くらいのことなので、要は「花鳥諷詠」を理論化していく時期だと思うんですが。俳句の本質は「酒」と同じだと虚子が思ってたということは興味深い点です。
中井 ぼくはこの言葉すごい好きなんですけど、要は「伝統を守りながら新しいことにチャレンジしなさい」という意味だと思うんですよね。「古い壺」ってのは伝統で、「新酒」ってのがチャレンジ。新しい米つくるときも従来の技術があってのうえのことなので。
――それでいうと「酒米」は「季語」のようなものですかね?(笑)
中井 まあ、そうですかね(笑) 酒米はすごく大事な核になるんで、季語みたいなもんだと思いますわ。季語も増えたり減ったりしますけど、酒米もそうですしね。それにチャレンジするかどうかは、こっち次第ですし。
――それに読者サイドの嗜好みたいなものもありますよね。食生活とかブームも変化するのと同じように、俳句でも受け取り手の側が変化しますよね。
中井 でもね、究極的には変わらない部分も大事だと思いますよ。余花朗の言葉だったと思うんですけど、虚子先生みたいな人は別として、自分がええなあと思うような俳句って「一生に一句」くらいしか作れへんって言うんですよね。どこで判断するか言うたら、掛軸にして100年残しても恥ずかしないかどうかだって言うんです。
――でもそれだって自分だけがいいと思ってても仕方ないですもんね。いろんな人に愛してもらえるような句を作らないと……汰浪さんはいまはどんな環境で句座を囲まれているんですか?
中井 俳句会をふたつぐらい持ってるんですけど、俳句やったあとに「浪乃音」を飲むって会をやってるんです。飲食店さんと組んでお店の名前で参加者を集めるんですけど、最初は酒から入ったつもりが俳句も楽しいやんってなってて。みなさんハマってますね(笑)
――でも酒蔵の方で俳句やっている方って意外と少なくないですか? 昔は西山泊雲〔1877-1944, 丹波市の西山酒造場の長男として生まれる〕がいましたけど、いまは汰浪さん以外、聞いたことがないんですよね。
中井 ぼくも聞いたことないですね。西山さんも当代はやってないと思いますよ。
――やっぱり忙しいからなのかなあ……こんなに俳句と相性のいい職業もなかなかないと思うんですけど。SNSとかで募って酒造業界にも広めたらどうですか? 絶対ハマる人でてきますよね。
中井 忙しいから俳句できひんってのは言い訳ですね(笑) 蔦三郎っていう大阪の俳人が「ホトトギス」にいるんですけど、「俳句は忙しければ忙しいほどいいのできる」って言ってはりましたから。

――去年からのコロナの影響はどのくらいありましたか?
中井 もちろん売り上げはすごい下がりましたし、家飲みが増えてるので一升瓶から四号瓶へ、四号瓶から3デシ〔300ml瓶〕って小さくなってますね。逆に計り売りは売り上げがすごく上がってます。
――さっきクラファンの話が出てましたけど、何か営業上の工夫などはしていますか?
中井 たぶん平常通りに戻っても外では飲まないって人が3割くらいはいると思うんですよ。その分は、自宅用に買ってもらえるようなマーケティング上の工夫が必要ですよね。オンラインショップを充実させたりとかね。「オールモスト」と並行してやってるのは、「酵素」のお酒なんです。
――どうしてまた「酵素」のお酒を?
中井 比叡山と堅田のあいだにある仰木ってところに有機栽培で発酵エキスを作ってる工場があるんですよ。酵素ドリンクって飲むのは女性が多いので、アルコールに抵抗ある人や妊婦さんでも飲めるように「ノンアルコール」の酵素のお酒を作ったんです。ふつう酵素にアルコールは入ってないんですけど、酒蔵で酵素使うのうちが初めてやから面白いかなと。作ってみたらすごくいい出来だったので、今年は「オールモスト」と「酵素」の二本立てで頑張ってみようと思ってます。
――お酒を飲みながら健康を志向するというのは時代ですね。
中井 「酵素」は、免疫力を上げ、腸内環境も整えるとされてますからね。いまのような時期には需要があるんじゃないかと思ってます。「酔うために飲む日本酒」じゃなく、「体のために飲む酒」ってのも作れるんじゃないかと思ってまして。これはコロナがあったからこそのアイデアですね。本当は、海外展開とかも意識してるんですけど、去年はコロナでぜんぜん動かなかったので。
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