【リレー連載】
歳時記のトリセツ(6)/岡田由季さん
今年2022年、圧倒的な季語数・例句数を誇る俳句歳時記の最高峰『新版 角川俳句大歳時記』が15年ぶりの大改訂! そんなわけで、このコーナーでは、現役ベテラン俳人のみなさんに、ふだん歳時記をどんなふうに使っているかを、おうかがいしちゃます。歳時記を使うときの心がけ、注意点、あるいは歳時記に対する注文や提言などなど……前回の対中いずみさんからのリレーで、第6回は「炎環」「豆の木」「ユプシロン」の岡田由季さんです!
【ここまでのリレー】村上鞆彦さん→橋本善夫さん→鈴木牛後さん→中西亮太さん→対中いずみさん→岡田由季さん
――初めて買った歳時記(季寄せ)は何ですか。いつ、どこで買いましたか。
文庫版の「俳句歳時記」夏の部(角川書店)です。俳句を始めた頃、出席していた句会で使っている人が多く、携帯に便利と薦められました。一年かけて秋・冬・新年・春、と揃えました。その後合本も購入、歳時記の入っている電子辞書を買うまではメインで使っていました。
――現在、メインで使っている歳時記は何ですか。
手持ちの電子辞書に入っている、下記のものをメインで使っています(家でも)。
・角川俳句大歳時記
――歳時記はどのように使い分けていますか。
季語から調べるときには、上記(プラス広辞苑も)を電子辞書で串刺し検索にします。
当季の季語を探す場合は、「合本俳句歳時記(角川)」が多いです。
季語の席題を出すときには、月別に分かれているのが便利でホトトギス俳句季題便覧を見たりします。
――句会の現場では、どのように歳時記を使いますか。なるべく具体的に教えてください。
季語の意味や関連知識を調べるのに使います。季語にかかわらず、わからない言葉、あやふやな言葉はすぐ調べる方だと思います。残念ながらすぐ忘れてしまい知識が定着しないのですが……
そのほか席題の出題、作句のときに例句を見ることもあります。
また、急いでいるときにはスマホで検索したり、ネットの歳時記を見ることもあります。情報量は多いのですが、出版されているものほどの信頼性はないと思うので、そこは考慮しつつ利用しています。
――どの歳時記にも載っていないけれど、ぜひこの句は収録してほしいという句があれば、教えてください。大昔の句でも最近の句でも結構です。
良い句かどうかと、歳時記の例句として相応しいかどうかは少し違うように思います。
いわゆる有名句はかなり歳時記に載っていると思うので、それで不満はありません。
――自分だけの歳時記の楽しみ方やこだわりがあれば、教えていただけますか。
俳句を始めるずっと前、実家にあった「季寄せ-草木花(朝日新聞社 季寄せ-草木花)」の植物の写真をただ眺めるのが好きでした。(のちに吟行版を自分でも買いました。吟行に持っていったことはありません)。
俳句を始めた頃は歳時記が新鮮で、季語の説明などを読むのも面白かったのですが、今は普通に調べたり確認のために使うのみです。
――自分が感じている歳時記への疑問や問題点があれば、教えてください。
ガーデニングに興味があるので、園芸草花の季語については更新されていないと感じます。花壇で大定番になっているペチュニアやクリスマスローズなど扱いが小さい、パンジーのことを三色すみれとは今どき言わない、ビオラを傍題に載せてほしいなど。
あと、鳥の季語の季節分類が自分の中でしっくりこないものがあります。鶫は秋の季語ですが、私の住んでいる地域では11月後半~GW頃まで見るので、秋はいません。よく目にするのは春です。また、鳥の季語は歳時記によって違う季に分類されていることがあり、とまどいます(シジュウカラ、メジロなど)。
――歳時記に載っていない新しい季語は、どのような基準で容認されていますか。ご自分で積極的に作られることはありますか。
植物(花など)で、季節性があるものは歳時記に無くても作ってもいいと思っています。例えばネモフィラの句は、今まで作ったことはありませんが、吟行で見たら春の季語として使うと思います。
――そろそろ季語として歳時記に収録されてもよいと思っている季語があれば、理由とともに教えてください。
新しい風物などは、季感があっても特に季語に入れて欲しいと感じません。例えば日除けのアームカバーなど日常に定着していますが、俳句にするなら、自分だったら別の季語を入れて作るような気がします。もし新季語となり歳時記に当たり前に載るようになればそれはそれで受け入れるかもしれませんが。
――逆に歳時記に載ってはいるけれど、時代に合っていないと思われる季語、あるいは季節分類を再考すべきだと思われる季語があれば、教えてください。
時代に合っていなかったり、誰も作句しないものはたくさんあると思います。ただそれの使われてきた歴史も尊重したいので、特に消してほしいとは思いません。分類も前述の鶫のように、合っていないものも多いのですが、かといって簡単に変えていいのか……歳時記は自然科学書ではないので、矛盾があっても仕方ないように思います。
――季語について勉強になるオススメの本があったら、理由とともに教えてください。
野鳥関係で気に入っているのが
「俳句の鳥・虫図鑑―季語になる折々の鳥と虫204種」(監修 復本一郎、盛美堂出版)
図書館で見て、欲しくなったのですが絶版だったので古本で入手しました。写真が良くて図鑑として優れています。歳時記的な情報もバランスがとれていると思います。
――最後の質問です。無人島に一冊だけ歳時記をもっていくなら、何を持っていきますか。
あまり想像できませんが、強いていえば「合本俳句歳時記」(角川)でしょうか。電子書籍派ですが、そこはやっぱり紙の本を持っていくような気がします。
――以上の質問を聞いてみたい俳人の方がもしいれば、ご紹介いただけますか。テレフォンショッキング形式で…
「豆の木」でご一緒している、「陸」編集長の大石雄鬼さんに聞いてみたいと思います。作品の独自の身体感覚が魅力的で、季語の使い方もユニークなので、歳時記とどう付き合われているか伺ってみたいと思います。
――お忙しいなか、ご協力ありがとうございました。それでは次回は、「陸」編集長の大石雄鬼さんにお願いしたいと思います。お楽しみにお待ちください。
【今回、ご協力いただいた俳人は……】
岡田由季(おかだ・ゆき)さん
1966年生まれ。「炎環」同人。「豆の木」「ユプシロン」参加。句集『犬の眉』(2014年・現代俳句協会)。第67回角川俳句賞。
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】