
【読者参加型】
コンゲツノハイクを読む
【2025年12月分】
月末の恒例行事!「コンゲツノハイク」から推しの1句を選んで200字評を投稿できる読者参加型コーナーです。今月は6名の皆様にご参加いただきました。ありがとうございます!
思ひ出を蚊遣の渦が巻き戻す
伊藤伊那男
「銀漢」
2025年12月号より
伊藤伊那男氏の好きな句がある。
マッチ一本迎火として妻に擦る/伊藤伊那男
迎火としてはあまりに小さく脆いマッチ。逝ってしまった妻を迎えいれる精一杯の儀式。無力な自分と底知れない愛を感じる。そして、先日11月。伊藤氏は他界された。その前に詠まれたこの句。蚊遣の渦は時間の再生装置。煙のにおいが嗅覚的にかなしみとあたたかさを連れてくる。妻との日々を巻き戻しているのだろうか。ご冥福をお祈りいたします。
(押見げばげば)
一輌を送つて月の線路かな
安倍真理子
「ふよう」
2025年11月号より
よく有名な先生から陳腐になりがちと言われる、一輌列車、ローカル線、無人駅ですが、この句は月の線路かな、としたことにより、とても綺麗な景が立ち上がった。また、一輌を見送り、とせずに一輌を送つて、とし今出たばかり、心情も良く伝わります。年老いた母の元に子、孫が訪ねてきたのでしょう。そろそろ同居しないかと話題が出たのかもしれない。映像には闇夜に月に照らされた線路だけがあるのですが、芒の影、虫の声が聞こえてきます。無駄な言葉が一つもありませんね。
(慢鱚/俳句大学)
つくつくし眠る力の足りなくて
梅元あき子
「街」
NO.176より
「眠る力の足りなくて」のシンプルながら核をつく表現がすごい。「眠れない」ではなく、眠る力が足りないということから、疲れや体力の衰え、老いを思う。努力や意志ではどうにもならない、力不足なのだ。季語「つくつくし」が一番よく聞こえるのは夕方の時間帯だと思う。夜ではない。このことから、風邪で寝込んでいる場面や、あるいは病気で入院している場面を想像した。奥行きのある一句だ。
(千野千佳/「蒼海」)
干鮭の腹あかあかと身を揺らす
しなだしん
「青山」
2025年11月号より
干鮭から思うのは、教科書にもよく載っている高橋由一の代表作、『鮭』。江戸幕府が崩壊、明治時代の作品。荒縄や切れた赤身の質感、乾燥した皮の手触りなど、サケのさまざまな部分をそれぞれ非常にリアルに描き、日本の近代化を目指そうとした作品。この句からこの絵を思い出した。
(野島正則/「青垣」「平」「noi」)
武蔵野の森に風ある良夜かな
田中康雄
「秋麗」
2025年11月号より
私は、三十代前半から六十歳になる直前まで、国木田独歩の碑が二ヵ所にある東京・武蔵野市に在住していた。そのひとつの碑には「山林に自由在す」と武者小路実篤の書筆が彫られている。代表作『武蔵野』で有名な独歩。「武蔵野に散歩する人は、道に迷うことを苦にしてはならない」と言葉を残している。掲句は、何か特別なことを詠んでいるわけではない。ただ、「武蔵野」という土地を知っている者にとっては非常に心に刺さる句である。あの武蔵野の森に風が吹く良夜。森も風もそして仲秋の名月も、ただただ静かに美しい。
(卯月紫乃/「南風」)
飲みかけのビールを突き出して写る
西野結子
「むじな」
2025年号(通巻9号)より
思いがけず、はい撮るよー、とカメラを向けられた時のにこやかな表情や気分がリアルに見えてきます。「飲みかけのビール」からも、咄嗟のポーズでジョッキかグラスを「突き出して写る」様子からも、かしこまった会食というよりか気楽な飲み会の席のように思われます。内容はよくある光景で、表現や韻律は半熟な感じがしますが、綺麗に言葉を整えるのではなく、その瞬間の気分をストレートな言葉で描き出すことで、読者の中に生生しい記憶が立ち上がり気持ちや想像が膨らんでいくのだと思います。ちょっと大げさかもしれませんが、「物の見えたる光、いまだ心に消えざる中にいひとむべし」(三冊子)が出来た映像のように思われます。
(小松敦/「海原」)

【次回の投稿のご案内】
◆応募締切=2026年1月5日
*対象は原則として2025年12月中に発刊された俳句結社誌・同人誌です。刊行日が締切直後の場合は、ご相談ください。
◆配信予定=2026年1月10日ごろ
◆投稿先 以下のフォームからご投稿ください。
https://ws.formzu.net/dist/S21988499/
