【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2022年8月分】


【読者参加型】
コンゲツノハイクを読む
【2022年8月分】


ご好評いただいている「コンゲツノハイク」は毎月、各誌から選りすぐりの「今月の推薦句」を(ほぼ)リアルタイムで掲出しています。しかし、句を並べるだけではもったいない!ということで、一句鑑賞の募集を行っています。まだ誰にも知られていない名句を発掘してみませんか? 今回は7名の方にご投稿いただきました!(掲載は到着順です)


足元の平和四つ葉のクローバー

井上青軸

「秋麗」2022年7月号より

ほっとするひとときをいただいた。作者がみつけた四つ葉のクローバーはまさに、足元の平和。一瞬の嬉しさと興奮を感じられる我が身の幸運。些細なことに幸福や平和を感じられる暮らしを守っていきたいと思う。「足元の平和」をみんながいくつでもみつけられるような、穏やかな心持ちになれたらいいね。

フォーサー涼夏「田」)


空海が来る麦秋の真ん中を

石母田星人

「滝」2022年7月号より

愛媛県の伊予市や東温市には麦畑が拡がっています。麦は、冬の麦蒔きに始まり、麦の芽、麦踏み・・と、夏の麦秋まで楽しませてもらえます。また、四国はお遍路の地、お大師さんは遍路の方と同行二人、どこにでもいらっしゃる。でも麦の実った畑の真ん中を堂々と渡ってこられる空海のお姿、麦をなびかせる風も弘法大師が起こしているのかもしれませんね。

小原千秋/「櫟」)


一歳の靴よく歩く豆の花

近藤智敏

「円虹」令和4年8月1日号より

最近うちのこどもが1歳になり、はじめての靴を買った。かかとにクマのマークのついた12センチの靴。さっそく靴を履かせてみたら、歩かずに座り込んでしまった。1ヶ月くらい経ってふたたび靴を履かせると、公園をぐんぐんと歩いていくのでびっくりした。この句は「一歳の靴」という端的な省略がよい。「ファーストシューズ」よりも文字数が少なく、誰にでも伝わる表現だ。「よく歩く」で健康そのものの1歳児と、追いかける大人の存在まで見えてくる。季語「豆の花」のすこやかな語感も句の内容とよく響き合っている。

千野千佳「蒼海」)


郵便受ながく塞がれ柿の花

桑原規之

「南風」2022年8月号より

郵便受けの口がガムテープなどで塞がれているのは最近住宅街で見掛ける光景。家主が亡くなり処分を待っている家屋か。放っておくとビラ等で溢れ返ってしまうので関係者が塞ぐのだろう。昨今相続人がいなかったり相続税が払えずに処分に時間がかかるケースが多いと聞く。近所にも長期間放置され結局更地にされて跡に小さな建売住宅が四五軒建てられているところがある。

柿の花は目立たず多くは実にならずに落ちてしまう淋しい花。既に主を喪ったこの家の柿の木も更地にするために実を付けることなく切られてしまうのであろう。悲しい取合わせの句である。

種谷良二/「櫟」)


死に顔を覗いて来たり夜の桜

五島節子

「火星」2022年7月号より

はじめて死に顔を覗いたのはいつだっただろう。あまり思い出したくないのか覚えていない。歳をとるにつれてそんな機会も増えてきた。見下ろすようになるのを避けてそっと覗く。知っているはずのその人と距離の取り方がわからない。軽い混乱と昂りが突然涙に変わるときもあった。柩を離れ入れ替わり立ち替わり覗かれている柩のなかのその人を眺める。外へでたら少し寒気がした。ようやく体温を取り戻した気がした。此岸と彼岸をそっとつなぐような夜の桜がきいている。

岡本亜美/「蒼海」)



涼風の行方ブラックホールかも

峠三枝子

「滝」2022年7月号より

先日、ブラックホールを見た。プラネタリウムに投影されているとわかっていても、すべてが引きずり込まれてしまう気がして思わず身体に力が入った。そんな「ブラックホール」が「涼風」の辿り着く先なのだと言う。「涼風の行方」「ブラックホール」は目には見えないという共通点があるが、それぞれの魅力は対極にある。それらが適切な距離感でお互いの魅力を高め合っている。まるで俳句の機微に触れたような心持になった。光さえ逃げられないブラックホールのように、私の心を捕らえて離さない一句である。

笠原小百合/「田」)


診察を待てる顔して滝見かな

赤城嘉宣

「南風」2022年8月号より

身体の調子が悪いな、家で悶々とするよりも思い切って病院の門を叩く時の決意に似ているかも。滝でも見に行こうと精神的に疲れた時に思うことは。昨夜のあの電話か、職場の人間関係か、炭水化物の取り過ぎかも、思い当たる節はいろいろある。医者の診断を待つように、マイナスイオンを浴びたら滝からなにかメッセージが貰えるだろうか。こうやって前を向いていると問題の半分は解決した気がするから不思議だ。

さとう独楽/「蒼海」)



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