ハイクノミカタ

猫じゃらし全部さわって二年生 小川弘子【季語=猫じゃらし(秋)】


猫じゃらし全部さわって二年生 

小川弘子


歳時記には「狗尾草」や「ゑのこ草」という古風な言い方が幅をきかせているが、日常的には圧倒的に「猫じゃらし」である。つまり、犬から猫へのレジームチェンジがおきている。

そんなことはどうでもよくて、この句、やっぱり「二年生」が面白い。

では、なぜ「一年生」ではダメなのかといわれると、語呂が悪いということもあるが、やはり「全部」という言葉と「一」という言葉が合わないのである。

では、なぜ「三年生」ではダメなのかといわれると、これまたリズムが悪いということもあるが、この学年になると、急に大人びる(あるいは、勉強がすごくできてしまう/できなくなる)子供が増える。ギャングエイジのはじまりである。いろいろな意味で差がつきはじめる年なので、「三年生」はやはり説得力に欠けるのだ。

「二年生」、一見すると中途半端な面白さを狙っているようでいて、これがまったく動かないのである。もちろん、この子は紫陽花でも同じことをやるのだろうし、スーパーなどでは野菜や果物に触って親を困らせるのだろうけど、俳句的には「猫をじゃらす」ための草、というところでこれまた季語が動かない。

猫のように「じゃらされている」二年生の男の子、あるいは女の子。そのあふれる好奇心は、秋風の吹くままにある。

『We are here』(2020)より。

(堀切克洋)



【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 雁かへる方や白鷺城かたむく 萩原麦草【季語=雁帰る(春)】
  2. 気を強く春の円座に坐つてゐる 飯島晴子【季語=春(春)】
  3. 直立の八月またも来りけり 小島健【季語=八月(秋)】
  4. 干されたるシーツ帆となる五月晴 金子敦【季語=五月晴(夏)】
  5. 秋鯖や上司罵るために酔ふ 草間時彦【季語=秋鯖(秋)】
  6. 引越の最後に子猫仕舞ひけり 未来羽【季語=子猫(春)】
  7. 死はいやぞ其きさらぎの二日灸 正岡子規【季語=二日灸(春)】
  8. 大阪の屋根に入る日や金魚玉   大橋櫻坡子【季語=金魚玉(夏…

おすすめ記事

  1. 大空へ解き放たれし燕かな 前北かおる【季語=燕(春)】
  2. 置替へて大朝顔の濃紫 川島奇北【季語=朝顔(秋)】
  3. 茄子もぐ手また夕闇に現れし 吉岡禅寺洞【季語=茄子(秋)】
  4. 「ぺットでいいの」林檎が好きで泣き虫で 楠本憲吉【季語=林檎(秋)】
  5. 鹿の映れるまひるまのわが自転車旅行 飯島晴子【季語=鹿(秋)】
  6. 【書評】中西夕紀 第4句集『くれなゐ』(本阿弥書店、2020年)
  7. 非常口に緑の男いつも逃げ 田川飛旅子【季語=緑(夏)?】
  8. 冬と云ふ口笛を吹くやうにフユ 川崎展宏【冬の季語=冬(冬)】
  9. 【春の季語】雛
  10. しばらくは箒目に蟻したがへり 本宮哲郎【季語=蟻(夏)】

Pickup記事

  1. 他人とは自分のひとり残る雪 杉浦圭祐【季語=残る雪(春)】
  2. 朝顔の数なんとなく増えてゐる 相沢文子【季語=朝顔(秋)】
  3. 朝貌や惚れた女も二三日 夏目漱石【季語=朝貌(秋)】
  4. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第7回】大森海岸と大牧広
  5. しかと押し朱肉あかあか冬日和 中村ひろ子(かりん)【季語=冬日和(冬)】
  6. 神保町に銀漢亭があったころ【第94回】檜山哲彦
  7. 鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波【季語=鳥の巣(春)】 
  8. 死因の一位が老衰になる夕暮れにイチローが打つきれいな当たり 斉藤斎藤
  9. 或るときのたつた一つの干葡萄 阿部青鞋
  10. 白玉やバンド解散しても会ふ 黒岩徳将【季語=白玉(夏)】
PAGE TOP