コンゲツノハイク【各誌の推薦句】

【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2022年5月分】


【読者参加型】

コンゲツノハイクを読む

【2022年5月分】


ご好評いただいている「コンゲツノハイク」は毎月、各誌から選りすぐりの「今月の推薦句」を(ほぼ)リアルタイムで掲出しています。しかし、句を並べるだけではもったいない!ということで、一句鑑賞の募集を行っています。まだ誰にも知られていない名句を発掘してみませんか? 今回は10名の方にご投稿いただきました!(掲載は到着順です)


紙雛の踊りだしさうピアノの上

安倍真理子

「ふよう」2022年4月号より

姉や姪はピアノを習っていて、自宅にもピアノがあった。アップライトピアノは、上が平らなので、楽譜や人形など、飾るスペースになります。子供達が作った紙雛なのでしょう。女子会となるひな祭りには、みんなでピアノに合わせて童謡の「ひなまつり」を歌ったりしていることでしょう。紙雛も曲に会わせて踊っていることでしょう。調律師の方などに言わせると、音にも影響するので、あまり重い物などは置いてはいけないようです。紙雛ならば、問題なさそう。姉のところでは、長らく弾くことも無くなったせいか、洗濯物が置いてありました。

野島正則/「青垣」・「平」)


拉麺に師系家系日脚伸ぶ

櫛部天思

「櫟」2022年4月号より

昨今、有名ラーメン職人は芸能人のようになり、師系に言及されることも多い。この句、「師系」と「家系」とを並列に並べているのには違和感がある。作者はもちろんわかってやっていて、「師系とか家系とかよくわかりませんけど、ラーメンは気楽に食べりゃいいんです」という主張が感じられる。季語「日脚伸ぶ」の過剰すぎるほどの長閑さにもアイロニーを感じた。余談だが、わたしの友達は「家系」は、家でお母さんが作るような、野菜炒めがどっさりのったラーメンだと思っていたそうだ。(家系とは濃厚な豚骨醤油ラーメンのジャンル。)

千野千佳/「蒼海」)


年逝くや忘れスマホの鳴る事務所

森山くるみ

「澤」2022年4月号より

仕事納めの日の深夜、帰ってスマホがないのに気が付く。慌てて鳴らして探すも家では鳴っていない。その日の行動を顧みて最後に使ったのはオフィスだと思い至る。昨今のインテリジェントビルのセキュリティーは厳重で会社の総務や警備会社に連絡して多数の人に迷惑を掛けなければ取りに行けない。そんなことを考えると年始まで我慢するしかないかと思う。その間アドレス帳もないので誰とも電話もメールも出来ず、無人島に居るかのごとき生活。誰もいないオフィスで空しく鳴っている我がスマホを想像しつつスマホ依存社会の危うさを再認識する。そんな句と読んだ。

種谷良二/「櫟」)


号令が山彦を呼ぶ出初式

石川和生

「田」2022年5月号より

山間の町での出初式だろうか。「山彦を呼ぶ」がとにかく上手い。

消防演習の時でも、梯子乗りの時でもどちらでもいいだろう。消防団員たちの気合の入った声が、山々が呼応してくれてるかの如く谺し、新年の透き通るような青空に反響されていくさまがみるみる広がる。

北杜駿/「森の座」)


めめしきは男の性か雪女郎

三野宮照枝

「たかんな」2022年4月号より

「めめしき(女々しき)」「男の性」「雪女郎」と、「女・男・女」が一句の中に入っており、「めめしき」を敢えて平仮名で書いて見えにくくしている大変技巧的な句と思うが、句の内容も一筋縄ではいかない。

「雪女郎」は取り合わせであり、男が女々しいのは生きている女性に対してのことと思うが、「男の性や」と切らずに「か」と疑問形になっているのは、雪女郎に対して女々しい「男ごころ」を肯定してもらいたい、まさに男の「女々しさ」を表しているかに思える。

鈴木霞童/「天穹」)



藪入や父の釦を付け直す 

中山美恵子

「鷹」2022年5月号より

10年程住んだ松山の道後商店街にせんべい屋がある。観光客の多い日曜やお盆に店を閉めている。「うちは昔ながらのやり方で、薮入もあるので休みにするんです。」とおっしゃる。せんべいも子規の句にも出てくるほどに古いお店だ。せんべいだけでなくお店のやり方も受け継いでやっていくのは並大抵のことではないと思うが、そういう気概をもった生き方は大切だ。薮入で故郷に帰った職人さんはお父さんの釦を付け替えているのかな。ちなみにせんべいは二種類で、温泉せんべいは一ヶ月前の予約が必要。

小原千秋/「櫟」)


子ら帰る障子に二つ花貼りて

若林朝子

「橘」2022年4月号より

正月でもないのに、子育て中の娘が子供を連れて時々実家に泊まりに来るらしい。(子供の)パパが出張だから、って、そんな理由だそうだが、実家の老夫婦はてんてこまい、子供の動きや、子供が発する様々な音に目が回りそうになる、とは旧友の話。そんな話を聞いたばかりだったので、この句が印象に残った。子供たちは、作ってしまった障子の穴に自分で花を貼り付けたのだろう。きっとそのやり方を、工作の時間みたいにおばあちゃまから習って。「孫」などとは語られていないが、事の経過が鮮明に想像できる。

子連れ娘一家は、「来てうれし、帰ってうれし」というのが旧友の本音のようだ。

フォーサー涼夏/「田」)


美しく人並びをり初詣

鬼山雅子

「橘」2022年4月号より

少し離れたところからの「初詣」へ向けた眼差しと読んだ。明治神宮や浅草寺の初詣のように大勢の人でごった返すその只中では、このような句は生まれないだろう。初詣を俯瞰している句とも言える。しかし、掲句から伝わるのはただ人々が整然と並んでいるその光景だけではない。新年の前向きな願いを胸に一処に集まる人々。そんな参拝者の初詣に対する思いこそが「美しく」という措辞を引き出しているのではないだろうか。そして、美しく並んでいるのは人々ではなく「人」である。今を生きる一人ひとりに目を向けた優しい句だと感じた。

笠原小百合/「田」)


子ら帰る障子に二つ花貼りて

若林朝子

「橘」2022年4月号より

娘さんあるいは息子さんが連れて帰ってきたお孫さん。最初はおとなしかったが、慣れてくれば本領を発揮。元気が余って、障子にもしっかりと穴を開けてしまった。「ごめんなさい」とうなだれるお孫さんに、「いいのよ、一緒にこれを貼ってなおしましょうね」と朝子さん。

数日後、お孫さんは帰り、残された障子に咲く花は二つ。しみじみと楽しかった数日間を思い出す。障子の薄明かりに、静かな心が投影されている。

最近は障子のある家も少なくなってきたが、障子とはいいものだと改めて感じさせてくれる句である。平明にして余韻あり。

松村史基/「ホトトギス」)


五虎将で言へば春キャベツは馬超

土井探花

「雪華」2022年5月号より

 まったく意味が分からないし、そんなことを言われても困ってしまう。ただ抜群に面白い。

 私は春キャベツが好物である。好きな武将は馬超である。突拍子もない発想がユーモラス。

 このような形で評を終えてもかまわないとも思うが、馬超の兜のことを思い出した。獅子頭の特徴的な兜である。その形状が春キャベツのように思われたということではないだろうか。

 春キャベツの柔らかさ、甘さと兜の間に存在するギャップ、武将の名前を取り合わせることから生じる違和感がインパクトにつながっているのだろう。

 光本蕃茄/「澤」)



→「コンゲツノハイク」2022年5月分をもっと読む(画像をクリック)


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