【春の季語】涅槃図

【春の季語=仲春(3月)】涅槃図

お釈迦様の命日である(旧暦)2月15日には全国各地で「涅槃会」が厳修され、多くの寺院ではお釈迦様の入滅した時の様子を模した「涅槃図」の軸が飾られる。五音にするために「涅槃絵図」とされることもある。

釈迦が亡くなられたことを「涅槃」と呼び、この時期に吹く西寄りの風のことを「涅槃西風」という。


【涅槃図(上五)】
涅槃図にまやぶにんとぞ読まれける 後藤夜半
涅槃図しまふ二本のこりし太柱 能村登四郎
涅槃図やけむりの如き貌ばかり 関戸靖子
涅槃図の雲硬しとも柔しとも 藤田湘子
涅槃図の百足虫の足と毛虫の毛 斎藤朗笛
涅槃図の月の暗さのただならず 山田弘子
涅槃図の中流れゐる微風かな 鈴木鷹夫
涅槃図の猫の嘆きのしづかなり 大石悦子
涅槃図を捲ける難儀に来合はせし 大石悦子
涅槃図の嘆きの中に飛びこめり 渡辺花穂
涅槃図に入りきれざる鳥のこゑ 伊藤伊那男
涅槃図の末座のあたり綻べり 伊藤伊那男
涅槃図を見終つて靴篦使ふ 寺澤一雄
涅槃図に鶴すべりをる樹もあらむ 大屋達治
涅槃図の貝いかにして来たりけむ 小澤實
涅槃図に跳ねて加はる赤蛙 夏井いつき
涅槃図に看取りの医をらざりき 谷口智行
涅槃図にあんまり泣いていない人 津田このみ
涅槃図の蛸大足を伸ばしゐる 涼野海音
涅槃図の川となるまで象が泣く 堀切克洋
涅槃図の諸貝に毛の描かれある 堀下 翔

【涅槃図(中七)】
山寺や涅槃図かけて僧一人 星野立子
坐る余地まだ涅槃図の中にあり 平畑静塔
昨日見せざりし涅槃図今日掛かる 森田峠
ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず 有馬朗人
かへりみて涅槃図の月あをかりし 行方克巳
咳一つして涅槃図の中に入る 秋澤猛
百日蝋燭大涅槃図の猫照らす 近藤昶子
巻き了へて涅槃図のなか遙かにす 正木ゆう子
まひるまの涅槃図へ朱を入れたりき 夏石番矢
断崖のごとくに涅槃図を仰ぐ 中岡毅雄
釈迦白し涅槃図のやや上の方 岸本尚毅
擁きあふわれら涅槃図よりこぼれ 恩田侑布子

【涅槃図(下五)】
折りにくき膝を折りけり涅槃図に 波多野爽波
円丈に似たる兎や涅槃図に 堀下 翔

【ほかの季語と】
かけ通す涅槃図のあり冬の寺 阿部みどり女


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】



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