おとろへし親におどろく野分かな 原裕【季語=野分(秋)】


おとろへし親におどろく野分かな

原 裕
『出雲』より


初めまして、黒澤麻生子と申します。

今回から2ヶ月間、木曜日を担当させていただきます。よろしくお願い致します。

いただいた依頼は極力断らないことを信条としていますが、実はとてもプレッシャーを感じております。これまでの執筆者の皆様の説得力ある文章を前に果して何を書けば良いのだろう、本当に穴を空けずに書ききれるのだろうか、と。

申し訳ないのですが私、句歴は長いものの凡才にして不勉強者、熱く語るべき言葉も知識も持ち合わせておりません。

管理人の堀切さんからは自由に、ただ個人的には仕事にからめたエッセイを書いてもらえたら・・・と仰っていただきました。私の生業はケアマネジャー、自称ケアマネ俳人を名乗らせていただいております。介護保険制度が始まって24年、ケアマネジャーの認知度も上がってきたものだと感慨深いものがあります。せっかくなのでケアマネ視点で句を鑑賞したり、語らせていただきたいと思いますので、お付き合いのほどよろしくお願い申し上げます。

さて、掲句について。

作者の原 裕(1930年10月11日 – 1999年10月2日)は、茨城県出身の俳人。若くして原石鼎に師事、石鼎の死後、夫人原コウ子の養子となり、コウ子の跡を継いで「鹿火屋」を主宰したという。養子となって結社を継ぐ!それだけでも私は驚いてしまったが、その重責をしっかりと果たし、次世代に繋いだ作者は本当に真面目で純粋な方だったのだろう。

ここで詠まれている「親」は義母であるコウ子かもしれないし、または実の両親かもしれない。背の丸み、弱気な言葉、物忘れ・・・そんな具体的なことよりも、もっと本質的な衰えを直感的に感じたのだろう。外は台風、薄暗い部屋でともに過ごすうちに、改めて気づいたことも多く、口を突くように出てきた一句と思う。しっかりとしていると思っていた親の衰えというものは、子にとって衝撃だ。しかしそれが自然の道理であるのも事実。

何の衒いもなく実感に満ちた言葉が切実で、胸に迫る。またO音が続く韻律によって生み出されたリズムが、そのまま切れ字の「かな」へと集約されていく。恐らく似た内容の句は他にもあるだろうが、「野分」という季語が心の動揺を表しており、動かない強さがある。

そう、ちょうど台風が次々到来するこの時期、夏の疲れと気圧の変化で体調や認知機能面に変調をきたす方も多い。今年も猛暑が長く続き、炎天下の原付移動で私自身もじわりじわりとダメージを受けたけれど、ご高齢の方はもっと深刻。

先日、新規依頼を受けて訪問した方は、この夏の暑さで外出を控えているうちに食事量が減り、体力も認知機能もすっかり落ちてしまったとのことだった。確かにご本人が「やってます、できてます」と言っておられることと実際の乖離が部屋の様子に表れている。ご本人はあまり自覚がないようだが、ご家族が困り果てて介護保険を申請したらしい。さて、これからどうサービスに結びつけて暮らしを維持していくか、ケアマネとして悩みどころ。

そんなことを書いているうちに、83歳の父から「動けない、助けてくれ」とLINEが入った。何があったかと電話をしたら、旅先でサイクリングを楽しみ過ぎて筋肉痛になったとのこと。もう勝手にして・・・。

ということでケアマネというと優しい人と思われがちですが、実は親には厳しいです。そんこんなで、しばらくお付き合いください。

黒澤麻生子


【執筆者プロフィール】
黒澤麻生子(くろさわ・まきこ)
1972年千葉県生まれ。1999年「未来図」入会。2004年未来図新人賞受賞。2005年「未来図」同人。俳人協会会員。2009年「秋麗」創刊に参加。2017年刊行『金魚玉』(ふらんす堂)により第41回俳人協会新人賞・第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。2021年未来図後継誌「磁石」創刊に参加。現役ケアマネジャー。


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



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