冬日和明るき影を作る石 岸田祐子【季語=冬日和(冬)】

冬日和明るき影を作る石

岸田祐子

冬の日差しが穏やかに差し込んでいる。
一つの石が、ただそこにあり、光を受けて、明るい影を地面に落としている。

「明るき影を作る石」に、私は、庭園の立派な石ではなく、足元に転がる小石を思い浮かべました。
それは、「明るき影」という言葉に導かれた想像です。
もしも大きな石ならば、影は濃く深く沈むものです。けれども掲句は、影を「明るき」と捉えています。
冬日和のやわらかな日に縁取られた、小さな影の軽やかさがそこにあります。

また、石が「明るき影を作る」と言われたとき、日差しを全身で受け止め、むしろ気持ち良さそうに光を浴びている姿を想像しました。
冬の空気の中で、陽光に包まれて、温もりを感じる小石の姿です。
読む人の心に、それぞれ異なる明るさが響いていく一句だと感じました。

この句を読んで、窓辺に小石を置き、ほんのり伸びる影を眺めながら、お茶を淹れました。

菅谷糸


【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。




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