
チューリップ喜びだけを持つてゐる
細見綾子
パペットスンスンをご存知だろうか、PUPPET SUNSUN 公式サイト。セサミストリートにいそうな薄青くてふわふわで目玉がついたパペットだ。幼なげな台詞で可愛くもシュールなストーリーをYouTubeや、めざましTVなどで披露している。
スンスンを見てると泣けてくるんだと同僚が言っていた。スンスンの歌う「とてと」という歌の「ゆかいだね ゆかいだね わくわくしていいんだよ」という歌詞で号泣したらしい。
もちろん疲れすぎているだろうから、休むことを勧めた。
でも、泣けるのはちょっとわかる。実はわたしもちょっと泣いた。
その、スンスンを見て泣いてしまうのと似たところが、この細見綾子の「喜びだけを持っている」にはある。
チューリップ。幼い頃「あかしろきいろ」と歌っていたころには輝いて見えたチューリップも、大きくなるにつれて平凡でありきたりな花に思えてくる。なんだ、チューリップか、みたいな。毎日は繰り返しでへとへとで、でも足をとめたら置いていかれそう。チューリップに喜ぶような幼なさは自分にはもう無い。だって大人だから。
そう思っている人に「わくわくしていいんだよ」「チューリップ喜びだけを持っている」と伝えたら。それは泣いてしまうかもしれない。
飽きてしまったチューリップ、それは本意が開かなくなったチューリップだ。味のないガムみたいなチューリップという言葉。いつまでも「あかしろきいろ」のままのチューリップ。でも、そこで細見綾子が発見したのは「喜びだけを持っている」ということだ。だけ、である。この混じりけのなさがチューリップという季語を一気に開く。
目に新しく飛び込んできたチューリップは咲くことに飽きたり倦んだりしていない。その輝くような明るさは、かつてチューリップを喜んだ幼い頃の自分を思い起こさせる。その幼い自分と今の自分の落差に泣き、そして、また喜びだけをもっていてもいいんだと気づく。
「ゆかいだね ゆかいだね わくわくしていいんだよ」とスンスンに言われて、ああ、楽しくてわくわくすることを忘れていたんだ。あるいは自分で抑圧していたのかも。そう気がついた時に、同僚は泣いてしまったのかもしれない。
いや、ここで泣くならとりあえず休んだほうがいいと思うけど。職場にも咲くチューリップを一緒に見て、この句を教えてあげられたらなと思う。
(吉川千早)
【執筆者プロフィール】
吉川千早(よしかわ・ちはや)
長野県安曇野市在住
「澤」同人 俳人協会所属
第10回新鋭評論賞受賞
・E-mail:chihayayosikawa@gmail.com
・X @chiyochihaya