愛しコルト秘む必殺の弾丸を八つ 日野草城【無季】


愛しコルト秘む必殺の弾丸たまを八つ
日野草城
(『轉轍手』)

日野草城の連作「マダム コルト」の謎を追え(後編)
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「マダム コルトの謎を追え(前編)」にて、「当時の回転式拳銃の銃弾は五発か六発が通常だった」と書いてしまったが、私の勘違いであった。その後、SNSを通じてY氏から「『コルトの自動拳銃』とは、小型拳銃『コルトM1903』ではないか」とのご指摘を頂いた。コルトM1903は、8連発なので、辻褄が合うとのことであった。Wikipediaによれば、「小型で携行しやすいこと、撃鉄内蔵型であるために銃を隠し持ち、有事に抜き撃ちをする必要性から、諜報員や工作員にもよく使用されたといわれる」とある。つまり、回転式でもなく、弾も八連発とのこと。
 Y氏はまた、この銃を携帯するには、肩から吊るして脇の下に隠し持つケース(ショルダーホルスター)がよく使われた可能性を述べ、
   コルト睡いぬロリガンにほふ乳房ちちの蔭
の句は、「銃撃(暗殺?)を終えた女が銃を脇のホルスターに戻した時に、銃の熱か高揚した女の体温で香水が立ちのぼった、という景ではないか」と解釈された。素晴らしく臨場感のあるご解釈だと思い、納得した。重要な情報を頂き、改めて御礼申し上げます。
 さて、この「マダム コルト」の連作は、第四句集『轉轍手てんてつしゅ』に収録されている。この第四句集は、後世の評価は低いもののファンの間では人気のある斬新な句集である。

【第四句集『轉轍手』ダイジェスト】
 日野草城の第四句集『轉轍手』は、昭和13年の出版で、昭和10年の「旗艦」創刊から三年間の作品を収めた。句集名の轉轍手とは、鉄道線路のポイントを切り替え、列車の進路を変更する作業を行う技師のこと。ホトトギス同人を除名され、本格的に新興俳句へと舵を切ったことを表明する題なのである。句集は、連作の俳句を収める「列車」と単作の俳句を収める「単車」の二部構成になっている。句集中には無季俳句も多く見られる。草城は、ホトトギス同人を除名された昭和11年頃より、無季俳句を容認し始める。「無季なるものも俳句である」とし、それを提唱する者たちを超季感派と名付けた。但し、十七音の定型は守る方針を貫く。
 『轉轍手』の見所は、連作の題材の面白さにある。復本一郎氏は著書『日野草城 俳句を変えた男』にて、『轉轍手』をエンターテインメント俳句の集大成と呼んでいる。飛行機、観覧車、オーケストラ、美容院などの近代的な題材が目を惹く。また、昭和十二年に勃発した日中戦争を詠んだ戦火想望俳句を収録する。

 以下、作品を紹介してゆく。私生活では、大阪海上火災保険株式会社の庶務課長に昇進し多忙であった。連作には引き続きオフィス俳句が生き生きと詠まれている。これらの句は、現代の仕事俳句の先駆けともいえる。季語の少ない職場でも季語を入れることにより奥行きが出ている。超季感派の立場をとりつつも、季語を大切にしていることが分かる。
   印影の朱のあざやかに事務始
   硝子拭き去りたる大き窓の春
   陽うらら珠みだれたる算盤に
   籠のどか欠勤届二三枚
   サイネリア花たけなはに事務倦みぬ

 エリートではあるものの、サラリーマンとしての悲哀も詠む。サラリーマン俳句としても先駆けである。五句目の夕刊の句は無季であるが全く違和感がない。なおかつ詩情がある。
   ボーナスを貰ひて青き芝を買ひぬ
   眼を閉ぢて春のゆふべの勤人
   小市民金を預けて出て寒し
   新鮮な夕刊を買ふ風の中

 戦争の句は、「Y新聞特派員戦況報告」と「遠征を想ふ」という題の一連がある。草城は戦地に赴いているわけではないので、新聞の記事を読んで作った句も想像で詠んだ句も「戦火想望俳句」と呼ばれている。戦争がテーマの句は無季が多い。季語というものが句の中に流れるテーマであると考えた時、戦争自体が季語のような役割を果たすと考えたのであろう。季語はなくとも、景が浮かび上がるように詠まれている。
   隊長は死につつ兵を往かしめき
   両眼を射貫かれし人を坐らしむ
   工員の人柱こときれても立つ
   特攻兵バケツを提げて戦死せり
   一人また一人隊伍の友消ぬる
   氷雪に愛かなしき機関銃と寝る

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