目を修理歯を修理して九月尽 益岡茱萸【季語=九月】


目を修理歯を修理して九月尽

益岡茱萸

 治療ではなく修理。自分の肉体のことなのにとてつもなくドライだ。人生の中で、達観に届く段階に入ったということなのだろう。
 血気盛んな二十代の頃は、この若さで視力が落ちるなんてどうしよう。この若さで歯がうずくなんてどうしよう。白髪が一本でも見つかれば「ギャー!」と騒いでいた。 しかし年を重ねるにつれ、人の細胞もDNAもそれなりに使い減りしていくことを誰もが体験していく。自分の体のガタにも「まあ、そういうことにもなるわな」と納得がいくようになる。この体は、たまたま授かった“容れ物”であり、意のままには操れないのだ。
 とはいえ、容れ物だからこそ大切に扱わねばならない。そう思いながら、アプリで病院を予約する。 かつては診察室で「どうされましたかー?」と対面でやり取りしていたが、今はスマートフォンの画面で事前に問診票を入力する。氏名、調子の悪い場所、症状…チェック項目を淡々と埋めていく作業は、まるで電化製品の修理手続きと変わらない。素でこなしていく作者の姿がかっこいい。
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 さて今年の九月は台風や連休で慌ただしかった。この句を眺めている私の体もあちこちねじが緩んだ感がある。いっちょ締め直し、実りの十月を始めよう。十、十一月の水曜日を担当します。よろしくお願いします。

(西山ゆりこ)


【執筆者プロフィール】
西山ゆりこ(にしやま・ゆりこ)
1977年神奈川県生まれ。「駒草」同人。俳人協会会員。
第10回星野立子新人賞受賞。句集『ゴールデンウィーク』『錨(アンカー)』。



第10回星野立子新人賞を受賞した若手俳人による注目の第二句集!
◆自選10句
十代の首筋をもて海芋咲く
遠くより視線を戻す暑さかな
八月や果実のやうに嬰量る
バックネット裏の母達風光る
うれしげにさらはれてゆく村芝居
とんでくる拳のやうな寒さかな
白障子手紙の中のしづかなり
手を高くエスカレーターより御慶
寺山忌煙草のけむり無き街に
うつむくといふは鳥にも春惜しむ


20歳から俳句をはじめ、現在40歳。夢、希望、孤独、挫折をうたい、やがて母となりゆく作者。 俳人阿部みどり女の「写生に始まり、写生に終わる」の精神を受け継ぎながらも、その俳句は写生の域を超えてリアルな言葉で読者の胸に迫ってくる。女として、母として、自分を取り巻く世界をかくも生き生きとうたい上げ、感性を光らせる280句を収録。伝統に新風を吹き込む精鋭作家、待望の第一句集!


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