菰巻いて松は翁となりにけり
大石悦子
先週の土曜日、小春日和のなか国分寺の殿ヶ谷戸庭園を吟行した。ここは国分寺の段丘崖とその地形から浸出する湧水を利用した庭園である。元々は三菱合資会社の社員の別荘だったが、取締役の岩崎彦彌太(岩崎弥太郎の孫)が買い取り、回遊式庭園に整備した。段丘を登ったところに紅葉亭という数寄屋造りの和室があり、そこからイロハモミジの紅葉を鑑賞できるようだが、先週の土曜日時点ではまだ紅葉になっておらず青々としていた。
菰巻いて松は翁となりにけり 大石悦子
庭園を入ったところに芝生があり、そこに松の木が10本ほどあり、幹に菰巻(こもまき)が施されていた。菰巻とは、角川歳時記によると、雪折れを防ぐために樹木に縄を巻き付けるとあり、冬の季題である。ただ、菰巻は害虫駆除の目的もあるので、雪の多くない国分寺はこの害虫対策が主目的だろう。よく見ると、縄の結び方に違いがあり、梅の花びらのような形をした「梅結び」や「井桁結び」など江戸から伝わる伝統的な結び目が見られた。掲句は、そんな菰巻した松が腹巻した翁のように見えたのだろう。
明日、この庭園で伝統技能見学会と称して「雪吊り」が披露される。雪国ではない国分寺で雪吊りを見れる貴重な機会である。
(塚本武州)
【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。国立市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。
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