ハイシノミカタ【俳誌を解剖する】

ハイシノミカタ【#2】「奎」(小池康生代表)


【俳誌ロングインタビュー】
ハイシノミカタ【#2】
「奎」(小池康生代表)


セクト・ポクリットでは、先月から新企画「ハイシノミカタ」をスタートしました。さまざまな俳句雑誌(結社誌・同人誌・総合誌)の編集のうらがわについて、がっつり訊いてしまおうというコーナーです。【#2】は、小池康生さんが代表をつとめる「」。編集長の仮屋賢一さんに、創刊の経緯から「関西俳句」の現在まで、じっくりとお話をうかがいました。


「関西の若手の受け皿」として

――まずは、「奎」が創刊された経緯を教えていただけますか。創刊は2016年でしたでしょうか

仮屋 創刊の年は2017年としています。2016年の夏頃、小池・仮屋の二人で何かの用事のあとにそのまま夕飯までご一緒していた時、雑誌を作ろうという話になったんです。当時から、『群青』や『里』など、10代・20代も多く活躍するような同人誌はありましたが、それほど選択肢も多くなかったような状況ですので、どこかに入ることを考えるのもよいのですが、何か自分で作り上げるというのもいいなというようなことをぼんやりと考えていたんです。

「奎」編集長の仮屋賢一さん

――小池さんと同じ「銀化」の櫂未知子さんと佐藤郁良さんが『群青』を創刊したのが、2013年のことですね。「全国の若手を結集」することを掲げているとはいえ、こちらは関東圏の方がマジョリティーである印象です。

仮屋 二人で話している時に、関西にもたくさん人がいるのだから、活躍する場所を見つけられずに燻っている才能を秘めた人だってたくさんいるだろう、そういう人たちと出会い、共に俳句をしたいといった話も出てきましたね。そういう話をお互いしているうちに、雑誌を作ってみるのはどうだろう、という話になったのです。
 そこからは、身近で思い当たる数人に声をかけ、賛同してくれた人とパイロットパイロット版であるゼロ号を発行しました。それが2016年の12月です。

――えっ、半年の準備期間で「ゼロ号」まで

仮屋 そこから、同人として共に船出をしてくれる仲間を募り、3ヶ月後の2017年3月に創刊号を出しました。雑誌を作り始めたのは確かに2016年ですが、出航したのは2017年というイメージですね。

 ちなみに、雑誌の名前「奎」は、「文運をつかさどる星」の意味がありますが、この言葉とは、小池・仮屋どちらも頭文字がKであることがきっかけで出合ったのです。イニシャルにちなんで、「けい」を辞書で引いたら邂逅した、そういう縁です。

――小池代表の第二句集『奎星』(2020)の「あとがき」で知ったのですが、「奎」という言葉には、「北斗七星の第一星から第四星まで」という意味があり、中国では「文章をつかさどる『神』」でもあると。折しも昨年(2020)は、東大在学中の岩田奎さんが田中裕明の記録を超えて、史上最年少で角川俳句賞を受賞しました。

仮屋 岩田奎さんは一度雑誌で俳句甲子園について語る座談会にお招きしたこともあって、縁は感じておりました。お招きした際も、同じ名前というのは偶然だったのですが、やはりそうやって縁を持った方が活躍されるのは嬉しいことでしたね。これもやはり「奎」という言葉との出合いから始まる不思議なご縁です。

「奎」の表紙。2020年12月に最新刊の16号が発刊された

――ちなみに「奎」と深いかかわりや交流をもっている結社はありますか?

仮屋 結社といえば、やはり「銀化」ですね。代表の所属結社ですから。創刊のときから、応援していただいています。でも、それくらいでしょうか。あまり結社や同人誌ぐるみでの交流、というようなことは特にないですね。

印刷・製本以外は「100%」自前

――編集長としての主なお仕事について教えてください。

仮屋 一番大きいものは、原稿を実際の誌面にレイアウトして入稿するという作業ですね。業者に頼んでいるのは印刷・製本だけで、編集は100パーセント自前でやっています。知識も経験もゼロのところからスタートしていて、今でも試行錯誤の繰り返しなのですが。

――誌面のデザインも自前で、というのはすごいですね! DTPは誰でもできるようになった時代とはいえ、版下(記事レイアウトから修正まで)を自前でやっているグループは圧倒的少数だと思います。

仮屋 編集作業を効率的にするために、いろんなツールを導入したり、プログラムを組んだりなど、システム面でも次から次へと試して行っていますね。あとは、編集部との取りまとめです。とはいえかなり他のメンバーに助けてもらっていて、もっとしっかりしないと、と思うことばかりですが。

――具体的に、これは便利だというツールやソフトがあったら教えていただけますでしょうか?

仮屋 編集自体はインデザイン(Adobe InDesign)という有名どころのソフトを使っています。それ以上にはあまりお金をかけないようにしており、多くの人が使っているExcelを活用しています。

――僕もインデザを少し齧ってみたことがあるのですが、ボタンが細かくて慣れるのには時間がかかりますよね。Excelの活用というのも、少し具体的に教えていただけますか?

仮屋 Excelは工夫次第でいくらでも活用できてとても便利なんです。特に、句会のときにはExcelが大活躍します。集まった俳句をシャッフルし、清記用紙にレイアウトして出力するところまで全てExcelでプログラムを組みましたし、メール句会のときにもGoogleフォームで集めた選と選評を、Excelのプログラムで結果発表の文書を作るところまで自動化しています。既存のサービスも存在しますが、やはり他人の作ったものはブラックボックスの部分もありますから、自分で作るのが安心です。何より、自分たちに便利なようにカスタマイズできますし、またExcelであれば多くの人が使っているソフトなので、特別な環境が無くても使えます。

――雑誌をつくるうえで、何か参考にしたことはありますか? 

仮屋 参考にした、といっても特定のものというわけでもなく、いろんな出版物を見て、ちょっとずつ参考にしていきましたね。

――誌面作りで、何か気をつけていることはありますか?

仮屋 気をつけていることは、見た目の読みやすさや綺麗さ、バランスといったようなことでしょうか。出来上がりで反省しているものの内容では、「ああ、もっと上下広くとっておけばよかった」のようにレイアウトのことがダントツですね。あくまで個人的な話ですが。

――それって、自作だからこその「上級」な悩みですよ(笑)これは仮屋さんから、これから雑誌を作ろうとする若い人たちに向けて、メッセージがほしいですね。失敗談などもあれば、ぜひ。

仮屋 最初は素人、失敗して当たり前の精神でしたから、失敗談というほどのものも無いのですけれども……まあ、3ヶ月に一度のペース出しているこの雑誌の発行が数ヶ月遅れてしまった、というのが大きな失態ですね。エピソードトークとしては面白くないですが。何とか、修正しました。

「読み応え」もつねに意識している

――表紙には「俳句雑誌」と書かれています。これは内輪だけの「結社誌」ではなく、俳句に関心があるすべての人に向けている、というニュアンスが込められているように思います。

仮屋 おっしゃる通り「俳句雑誌」に込めたニュアンスは、内輪だけのものでなく、幅広く読んでいただきたいというものです。俳句はもちろん本気で、でも、俳句以外の文章も読み応えのあるものを、ということを意識しています。俳句作品以外のところが目当て、という人がいたって面白いな、と。もちろん、俳句も読んでほしいですが。

――作品はもちろん、鑑賞などでも「読み応え」を意識されているということですね。

仮屋 たとえば「同人相互批評」というコーナーがあるのですが、「俳句はどう読めばいいのかわからない」というような人であっても、人それぞれこんな風に鑑賞しているんだよ、という例を見せて、楽しんでもらえるようになればいいなという思いがあります。俳句のベテランから、俳句を読んだことがない人まで、幅広い人にとって読み応えのあるものになれば、ということを思っております。

座談会などの企画も充実しているのが魅力のひとつ

――梅田蔦屋書店や「葉ね文庫」さんなど、一般販売もされているようですが、雑誌を出す上で強く意識されていることはありますか。

仮屋 同人の俳句がちゃんと載っているだけでなく、他の記事もちゃんと読み応えのあるものにする、といったようなことが気をつけていることでしょうか。

――「読み応え」の具体的な側面として、座談会やインタビューなど、精力的に組まれています。毎号、どのように企画を組まれているのでしょうか。

仮屋 やりたいことや話を聞きたい人など、案を持ち寄って、編集メンバーで話しあっています。何がいまホットな話題なのか、ということも押さえるようにしていますね。

――その中心には、当然編集長の仮屋さんがいらっしゃるわけですね。

仮屋 僕は、案を出すときにはあまり「俳句」ということを意識せずにしていますね。とりあえずやりたいことをリストアップして、その後で「奎」の企画としては相応しいのかどうかを考えるようにしています。

――これまでにいちばん反響があった企画は何でしたか。

仮屋 やはり、インタビュー記事に対してはいろんな反響をいただきます。インタビュー記事は巻頭インタビューと「自然と生きる人々」という二種類がありますが、どちらも読んでくださった方から感想をいただく機会は多いですね。面白いのは、俳人にインタビューしたときと、「自然と……」で俳人ではない方にインタビューしたときとで、反応してくださる人々の顔ぶれが少しばかり違うというところでしょうか。

最近だと、「銀化」の中原道夫主宰へのインタビューがありましたが、そのときも、銀化の方々からも初めて聞く内容だったというような反響をいただきました。

――特集のほうはどうですか。

仮屋 一度、俳句甲子園特集を組んだことがありましたが、その時は多くの方が雑誌を求めてくださりましたね。やはり、俳句甲子園はアツいコンテンツなんだな、と思いました。基本的にSNSで宣伝しているというのも大きいのかもしれません。SNSには高校生や大学生も多くいますから。

フリースタイルだが主張は求める

――創刊からまだ4年弱ですが、「奎」の現在の規模や平均年齢ついて教えてください。

仮屋 現在、同人は50名程度で、平均だと35歳くらいでしょうか。ちゃんと計算したわけではないのですが。10代から70代まで、年齢は幅広いですね。若い人が多く在籍する、とよく言われますが、結構「働き盛り」と言われるような年代の方も比較的多く集まっているんじゃないかなと思います。

――それは私のイメージと少し違うかもしれません。

仮屋 実際、句会に参加しているメンバーは20代が多いというよりも、4,50代が中心のような印象を受けるのではないでしょうかね? そういう年代で参加してくださる方の中には、俳句が初めてという方もたくさんいますし、初めてでなくとも、やっと良い場が見つかった、と仰ってくれる方もいます。

――若手だけではなく、各年代で俳句を始めたい人のいい受け皿になっているということですね。グループとしての特徴はありますか?

仮屋 同人誌ということですので、基本的には各々のスタイルで、というものがあり結構自由です。無法地帯のように何でもやっていい、というわけでもないですが、まあそれは、自由にするならするでちゃんと主張を持て、みたいな感じでしょうかね。

一方で初心者も広く受け入れていますから、指導を欲している人もいるわけです。ですので、指導を受けたい、という人は申し出れば代表の指導を受けることだってできます。現在も、数人ですがそういう方はいらっしゃいます。

――指導や上達がベースにある「結社」とは一線を引きながらも、指導的な句会も開催されているのですね。

仮屋 でも、やっぱりみんながそれぞれのスタイルで、というのは理想とするところでもあるようには思っています。誰かが誰かに合わせるのではなく、それぞれがそれぞれのやり方で、進むべき道を見つけ、そこを進んでゆく、そんなイメージです。

――関西以外に在住の会員もいらっしゃるのですか?

仮屋 おかげさまで、北海道から四国・九州に及ぶまで遍く参加していただいております。半分くらいは近畿圏なのですが、遠い土地から参加してくださっている方の中には、もともと面識もなく、関西にこれといった縁の無かった方が連絡をくださり同人になってくださった例もあります。「奎」入会を期に、わざわざ句会のために大阪を訪れてくださった方もいらっしゃり、嬉しい限りです。

人の魅力を育てる小池代表の熱量

――ところで、代表の小池康生さんは、どんな方なのでしょう? 『奎星』(2020年)のなかでは、「銀化」らしい機知とゆるい言い回しの句も多いのですが、〈唐辛子売るや辛さを詫びながら〉〈手の甲にメモある他は素つ裸〉〈チューリップ力抜ければすぐに伐る〉のような目の効いたユーモアの句に注目しました。

仮屋 言葉、そして詩に対してとても鋭く、厳しい眼を持った方ですね。とにかく、すごくしっかりとした芯のある方だ、というのは、句会を一度するだけですぐに気付かされてしまうほどなんじゃないかなと思うほどです。そして、とても熱い方ですね。

――小池さんの「芯」や「熱さ」は、「奎」の軸であると同時に、仮屋さんを惹きつけているものでもあるのですね。

仮屋 自分が小池さんと初めてお会いしたとき、小池さんは洛南高校の俳句コーチ、自分はそのクラブの卒業生の一人という立場だったのですが、俳句甲子園をはじめとして、高校生や卒業生に勝るとも劣らない熱量で、全力で取り組まれている姿がとても印象的だったのを覚えています。それは色々と状況が変わった今でも変わっていないと思います。

――コロナ禍のなかで開催された昨年の俳句甲子園で、洛南高校が見事準優勝を果たしました。

仮屋 「奎」に関してでも、その熱量に助けられ、突き動かされるところは大いにありますし、真剣に取り組む人に対して、その人の独自の魅力を見出し、伸ばそうと真剣に考えてくれているように思います。関西の人が「ああ、この人は大阪の人だな」と思うような良い雰囲気を持った方ですね(笑)

――「関西の若者達」の受け皿として創刊された「奎」からみて、俳句という文芸にどのような可能性があると考えていますか?

仮屋 なかなか難しいですね(笑) 正直、文芸史上でどんな爪痕を残し、これから先どうなってゆくのか、というのは全くわからないのですが……というのも、俳句をどうにかしたい、というよりも、人をどうにかしたい、というのが動機でしたし、今もそうですから、個々人が考えることはあったとしても、雑誌としてはあまりこういうことは考えたことはないような気がします。

――いきなり大きな質問ですみません(苦笑)

仮屋 まあ、文芸などという難しい話は置いておくと……俳句は、その人の地位や年齢などに関係なく、全員がフラットな立場で対等に渡り合える座を提供してくれる、と語られることがありますよね。社会的に地位や立場の弱い人も、俳句の場であれば活躍できるチャンスがいくらでもある、のような文脈で使われることも多いのですが、そればかりでもない。

――もうちょっと説明してもらってもいいですか?

仮屋 人よりできる人、能力がある人もまた、社会で孤立させられがちです。いわゆる、出る杭は打たれるといったことで、そういう人たちは社会でうまくやりくりしていても、本当に理解してもらえる場がなかなか見つからずどこか不満が募っていることだって多い。そういう人たちにも目を向けたい、という思いもまた「奎」の原動力となったのですが、俳句はこういったことも掬い取ることのできる手段として大きな働きをしてくれていると思います。可能性、という話でしたが、こういう方向性のところに可能性は一つ、感じるところがありますかね。

「関西俳句」の創作環境は激変した?

――「船団の会」のメンバーが中心でしたが、2011年に「関西俳句なう」という活動がありましたよね。同じころ、関西俳句会「ふらここ」が立ち上がっています。仮屋さんは「ふらここ」の代表としても活動されていましたが、もし可能ならば「関西俳句」なるものの歴史について、ちょっと教えてもらえますか? 

仮屋 「関西俳句」という固有名詞的なものがあるのか、といわれると、どうなんでしょうね……? 詳しい歴史はわかりませんが、確かに「関西俳句なう」は関東を意識した名称でしたね。関東が俳句の中心と言われているけどそれがどうした、関西も盛り上がっているぞ、というのを、ユーモアを含ませつつ僻みのような言い方であえて表現してみた、というようなニュアンスだった気はしますが、そういう雰囲気で「関西」の言葉を使ったのもあれくらいであるような気がします。

――なるほど。仮屋さんの「ふらここ」では、いかがでしたか?

仮屋 「ふらここ」のときは、意識していないというと正しくないとは思いますが、それでも全く別種の意識の仕方ではあったとは思います。自分は創始メンバーではなく創始翌月くらいにメンバーになったので、聞いた話にはなるのですが、当時、東京を中心として各大学で俳句会というのが学生主体で活動的で、一方近畿圏では学生が中心の目立った動きがありませんでしたから、創始のときに一つの大学の俳句会を作るというよりも、大学に関係なく、学生で集まって団体を作ろう、という考えになったと思うんです。

――つまり大学別にわかれるのではなく、もっと広域的なグループとしてということですね。

仮屋 「○○大学俳句会」構想が、インカレ化して、関西の学生集まっておいで、という思いから「関西学生俳句会」と大きな名称になっていき、さらに必ずしも「学生」に限る必要もないといった理由から、のちに「学生」も削られたわけなんです。

――ひとつには、関西の主要都市の距離も影響しているような気もしますが、今日お話をうかがっている「奎」のあり方とも似ているように思います。

仮屋 確かに京都-大阪-神戸間の移動は日常ですね。京都の私立高校になると、京都・滋賀の人より大阪や兵庫の人が多いような状況ですからね。大学生で関西以外の場所から来た人とはそこらへんの感覚が違うかもしれませんが(笑)

――やっぱり、千葉や埼玉や神奈川の人が「東京」まで出るの比べると、近畿圏はコンパクトですよね。逆に、いままで広域的なネットワークがなかったのが不思議にも思えてきます。

仮屋 今となっては俳句に関する情報もたくさん手に入りますし、さまざまな同人グループや結社の動きも見えやすくなっていますけれども、設立当時の2011年は、「ふらここ」がなければ、これといった伝手もなく、関西の学生が俳句を続けるのは相当な根性がないと難しいような状況でした。

――神戸には「諷詠」があり奈良には「運河」がありますが、京都・大阪となると案外少ないかもしれない。真鶴に南うみをさんの「風土」がありますが、もともとは東京の結社ですし。京都はやはり「和歌」の街だからなんでしょうか。ともかくもこの10年間でだいぶ創作環境は変化したのですね。

仮屋 今でも皆が皆、うまく情報を集められるわけでもないですし、いろんな方がいらっしゃいますから、そう考えると「奎」も「ふらここ」も、取り巻く状況は似たようなものなのかなと思います。

――でもおそらく、その出発点で「ふらここ」の果たした影響はやはり大きいんじゃないでしょうか。

「スピカ」(神野紗希)による関西若手へのインタビュー(2017年)。ここでも「関西/関東」の違いが話題になっている。左から二番目が仮屋さん。

「関西俳句」は実在するか?

――「関西〜」という表現は、一地域のコミュニティであることを超えて、「関東」に対抗するものとしての、ある種のオリジナリティを匂わせる言葉遣いになっています。もちろん「関西弁」というのはありますが、「関西短歌」や「関西演劇」というのはあまり聞きません。なぜ「関西俳句」なのでしょう?

仮屋 確かに「関西」というと「関東」は想起されますが、上方落語と江戸落語、のような強いアイデンティティを持っているわけではないと思います。言っている人も、あまりそういう意識はないのではないでしょうか。そもそも関西と一括りに言いますけど、各府県、各地域で地域性の差は大きいものから小さいものまでありますから、地域性を押し出すなら、それこそ東京の人が「関西俳句」と呼び始めたのならまだしも、関西圏の人が自分たちで「関西俳句」を自称するのは大きな違和感があります。「関西俳句なう」は、明らかに狙ったネーミングですが、先程も言ったようにあれはあの時限りのものだと思っています。

――たしかに「関西」のほうが各地域のキャラが立っているというか、同じ大阪のなかでも南北では全然違う、みたいな話をよく聞きます。だからこそ「関西」と一括りにしてしまうのは、なんだか奇妙な話ですね。

仮屋 地域ごとに差異があったとしても、それぞれの地域でこれと言った縄張り意識もなく、特に京阪神では人も頻繁に行き来してつるみますから、どういうくくりの集まりか、と敢えて聞かれた時に、「関西の人たちで集まっている」くらいしか答えようがないような感じになっているんじゃないですかね。いわば、「関西」というくくりが一番便利で妥当な気がする、というだけだと思います。

――なるほど。つまりは、地域の規模的な問題なのかもしれません。

仮屋 どちらかといえば、「関西俳句」という区切りで言葉を捉えるよりも、「関西一円の人が中心になっている俳句会」というニュアンスで捉える方が、より正確な感じはあります。「俳句」に「関西」を冠している、というつもりではないんです。実際、「関西俳句」(「関西電力」と同じイントネーション)という言葉は聞き慣れないです。

――意外とこういう「意識」のレベルの話ってわからないので、お話を聞いていて、とても納得しました。もちろん歳時記のなかには、関西圏の文化・行事なども多く収録されていますから、そういったところでは東西の違いが見えてくるのかもしれません。「鷹」主宰の小川軽舟さんが、関西に単身赴任されて詠まれている句なんかを見ていると、そんなことを思います。

定例句会は対等性を重視

――現在、結社の句会は、どのくらいの数がありますか? 小池代表が指導されている句会の数や参加人数を教えてください。

仮屋 現在、「奎」で行っている定例のものは月に2つです。「奎」スタート前から続いている「枚岡神社句会」と、「ひらかた「奎」句会」。どちらも中心メンバーは参加していますし、規模も変わりありません。タイミングによって、5、6人のときもあれば15人ほど集まる時もある、というものです。同人誌ですから、代表の指導が入るという形でもなく、あくまで全員対等というつもりで句会を回すことにはしています。とはいえ参加者からしたら完全に対等かと言われればそういうわけにもいかないですが。

 あとは、雰囲気作りですね。話しやすい雰囲気、もそうですが、楽しい雰囲気作り。とにかく、楽しく、それでいて深く、ですね。

2019年の句会の様子

――昨年からのコロナ禍で対面での句会も行いにくくなっていると思いますが、どのように対処されていますか。

仮屋 できる限りその場にいる人には満遍なく発言してもらうということを大事にしています。もちろん、何を言うかの内容も大事なのですが、それよりも、どんな意見であっても喋ることで勉強になること、鍛えられることはたくさんあります。それに、話すことの得手不得手は内容の良し悪しに直結しませんから。多くの人に話してもらえれば、周りが気付かされることも多いです。そういうことを大事にしようと思っています。

――句会運営上での工夫などがあれば、それも教えてください。

仮屋 対面がなかなかできないので、現在はメール句会とZoom句会をそれぞれ月に一回ずつ行っています。同人だけでやってみたり、幅広く参加OKにしてみたりなど、色々と試しつつやっていますが、対面とは集まるメンバーがまた変わってきて、そういうのも面白いです。

――若い世代が多いと、結社として子育て世代のフォローなども考える必要性が出てくるかと思いますが、何かケアされていることはありますか?

仮屋 子育て世代、いつか必要になってくるでしょう……今のところはまだ該当する人もいませんし、出てきたとしても個別に対応していくような範疇かなとは思います。

――あっそうか、子育てとかはまだ先の話なんですね…!

仮屋 そもそもメインの活動自体も、固まっているとは言い切れず、試行錯誤をまだ繰り返している段階ですので。ただ、ケアといえば、大学生の就活だったり、高校生の受験など、そういうライフイベントのときには優しく見守るような雰囲気は作っています。

――年間を通じて、イベント(鍛錬句会、宿泊付きの吟行、新年大会など)はどのくらい予定されていますか。といっても現在は、コロナ禍で中止にせざるをえない状況がつづていますが…

仮屋 それこそ、鍛錬句会、宿泊付きのものといったものは、やりたいと考えているところです。まだどれも実現させたことはないのですが。これから、ですね。

試行錯誤しながら効率化を

――結社誌への投句は、葉書でしょうか? 葉書だと打ち込みの作業が発生すると思いますが。

仮屋 投句は、今は基本的にはウェブのフォーマットに記入してもらうことにしています。具体的には、Googleフォームを活用しています。

――それは名案ですね。だいぶ作業の手間が省けるように思います。

仮屋 以前は、ワードのフォーマットファイルを作ってそれに記入してもらう形を取っておりましたが。手間を減らすことは、結果的にヒューマンエラーを減らすことにもなりますから。フォーマットが統一されれば、単調作業の多くはプログラムを書いて自動化させられます。句会の投句でも、事前に集める際は、使えるものはどんどん活用していっております。

――SNS(Twitter、Facebookなど)はどのくらい活用されていますか。基本的にはSNSがメインで、ホームページは作っていないのですよね。

仮屋 そうですね。SNSがメインです。Webサイトを開設していないのも、そこまでまだ手が及んでいないだけ、というのが正直なところです。まだまだ今の活動で精一杯になってしまっているところがあります。でも、おかげさまで「奎」にはいろんな特技を持った人が集まってきてくれていますから、そういう方々の力も貸してもらって、これからどんどんと、そういうコンテンツも充実させたいと思っております。

――新しく俳句をはじめられる方も多いとのことですが、新入会員に勧めている本などがあれば、教えていただけますか?

仮屋 そういうものは特にありません。ただ、誌上で「高校生・大学生が読む俳句入門書」という企画を連載しているのですが、執筆者には読みたい本を自分で選んでもらうことにしています。名著を勧めるというのはいくらでもできると思いますし、その人が訊いて来ればいくらでも紹介はしますが、やはり自分で選んで読む、そういう出合いも大切です。やはり、自主性が大事、ということですね。

――なかなか誌面を手にできる方も多くないと思うので、現在の「奎」を代表する作家を何名か、作品とともにご紹介いただけたら嬉しいのですが。

仮屋 「奎」には句風からして様々な人が集まっているので、ぜひそういう色とりどりなところも含めて、雑誌を読んで楽しんでほしいのですが……(笑)

――そこをなんとかお願いします(笑)

仮屋 ここ一年で受賞の知らせをくれた人として、第16回鬼貫青春俳句大賞を受賞した細村星一郎くん、また同じ賞で優秀賞を受賞した田邉大学くん、そして全国俳誌協会第3回新人賞受賞の横井来季くんをご紹介いたします。

指紋って街みたいだね水の春  細村星一郎

飛花落花空に汀のあるごとし  田邉大学

春愁のかたちにつぶす紙コップ 横井来季

――無理なお願いをきいてくださって、ありがとうございます。同世代の俳人が近くにいるというのは、いいことですね。それでは最後に、これを読んで関心をもってくださった読者のために「奎」への入会方法や問合せの方法を教えてください。

仮屋 とにかく、kei.tokaki@gmail.comまでメールをください! ツイッター(@kei_tokaki)やLINEアカウント(https://lin.ee/eR0JNRn)へ連絡していただいても構いません。詳細を知りたい場合も、上記連絡先からお問い合わせください。

――仮屋編集長のおかげで、ひとりひとりの自主性を重んじる「奎」の魅力が、多くの人に伝わるインタビューになったと思います。答えにくい質問にも真摯にお答えいただき、ありがとうございました。ますますのご活躍を楽しみにしております。

【次回は「街」、3月1日ごろ配信予定です】


【俳句雑誌「奎」について】
平成29年3月、小池康生が大阪を拠点に「関西若手の受け皿」として創刊。自由闊達を旨とし座談会やインタビューなど、関連記事の充実も目指す。季刊。400部発行、誌代は年間4800円。

小池康生(こいけ・やすお)
1956年大阪市生まれ。30代後半より俳句を始め、40歳のとき仕事の関係で上京。その際に「銀化」入会。2012年、第一句集『旧の渚』(ふらんす堂)、2020年、第二句集『奎星』(飯塚書店)上梓。「銀化」同人。「奎」代表。

仮屋賢一(かりや・けんいち)
1992年生まれ。京都府大山崎町出身。第11~13回俳句甲子園出場。俳句雑誌「奎」編集長を務めつつ、作曲・編曲活動を行う。


【バックナンバー】
>>【#1】「蒼海」(堀本裕樹主宰・浅見忠仁編集長)



【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 【#46】大学の猫と留学生
  2. 【書評】山折哲雄『勿体なや祖師は紙衣の九十年』(中央公論新社、2…
  3. ゆる俳句ラジオ「鴨と尺蠖」【第3回】
  4. 【新企画】コンゲツノハイク(2021年1月)
  5. 【#22】鍛冶屋とセイウチ
  6. 【#32】『教養としての俳句』の本作り
  7. 【#34】レッド・ツェッペリンとエミール・ゾラの小説
  8. 秋櫻子の足あと【最終回】谷岡健彦

おすすめ記事

  1. こぼれたる波止の鮊子掃き捨てる 桑田青虎【季語=鮊子(春)】
  2. 秋櫻子の足あと【第10回】谷岡健彦
  3. 趣味と写真と、ときどき俳句と【#03】Sex Pistolsを初めて聴いた時のこと
  4. 【春の季語】惜春
  5. 象潟や蕎麦にたつぷり菊の花 守屋明俊【季語=菊(秋)】
  6. 「我が毒」ひとが薄めて名薬梅雨永し 中村草田男【季語=梅雨(夏)】
  7. 神保町に銀漢亭があったころ【第89回】広渡詩乃
  8. この人のうしろおびただしき螢 飯島晴子【季語=蛍(夏)】
  9. 【書評】人生の成分・こころの成分――上田信治『成分表』(素粒社、2022年)
  10. 「野崎海芋のたべる歳時記」蕪のクリームスープ

Pickup記事

  1. 片影にこぼれし塩の点々たり 大野林火【季語=片影】
  2. 血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は 中原道夫【季語=絨毯(冬)】
  3. 【秋の季語】秋灯下
  4. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2022年9月分】
  5. 神保町に銀漢亭があったころ【第52回】大和田アルミ
  6. 犬去れば次の犬来る鳥総松 大橋越央子【季語=鳥総松(新年)】
  7. 【クラファン目標達成記念!】神保町に銀漢亭があったころリターンズ【10】/辻本芙紗(「銀漢」同人)
  8. 【オンライン勉強会のご案内】「東北の先人の俳句を読もう」
  9. 笠原小百合の「競馬的名句アルバム」【第9回】2006年 朝日杯フューチュリティステークス ドリームジャーニー
  10. 髪で捲く鏡や冬の谷底に 飯島晴子【季語=冬(冬)】
PAGE TOP