水仙や古鏡の如く花をかかぐ
松本たかし
「古鏡」とは古代の金属製の鏡。青銅や白銅で鋳造したものの表面を磨き上げて光の反射で映るようにしたものだ。
古代の人がそこに顔を映して眺めていたものだと思うと、発掘されて展示されている古鏡を見るたびに古に思いを馳せ、言い知れぬ心地になる。
「古鏡の如く」
こんな比喩をしてみたいという憧れの句。
水仙の花の形と纏っている静謐な空気が「古鏡」を呼び寄せたのであろうが、その比喩はありきたりでなく、また離れすぎてもいない。
互いの魅力を引き出すような比喩だ。
それに「花をかかぐ」という措辞が、その比喩を映像として引き立てている。
響き合う水仙と古鏡。
水仙はただの水仙ではなくなり、古鏡には命が吹き込まれる。
(日下野由季)
【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』、『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。
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