冬と云ふ口笛を吹くやうにフユ
川崎展宏
立冬を過ぎて、気づけばいつのまにか季節は冬へ。
それぞれの季節の立つ頃は前の季節が残っていて、季が変ってもたいてい名ばかりという感じがする。それでよく「暦の上では」と言ったりするのだが、その暦の上というのを私はとても大切にしている。
体感だけで季節を感じていたら、『古今和歌集』や『源氏物語』『枕草子』など日本文学上の季節の移ろいにおける豊かな情緒は生れなかったはず。
今日から冬、と思う心が、装いや調度に季節ならではの趣向を見せたり、目に映るもの、肌で感じるもの、耳に聞こえるものの微妙な変化を気付かせてくれるのである。
冬と云ふ口笛を吹くやうにフユ
掲句、「冬」と言ってもそれは冬の入り口という感じ。句から厳しい寒さは感じない。
青々とひろがる空の下でひとり、「冬」と言ってみる。
「口笛を吹くやうにフユ」
言われてみれば「冬」だけが口笛を吹くように言える。まるで季節の移ろいを確かめる一人遊びのようで、なんだかとても楽しそうだ。
アの母音が一音もないので、口をすぼめたまま一句を言うことができて、句全体も冬仕様という感じ。「フユ」の表記もやがて吹き来る北風のヒューという音を思わせる。
なんて遊び心のある句なのだろう。
この季節になると恋しく口ずさみたくなる。
句集『秋』(1997)所収
(日下野由季)
【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』、『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。