東日本大震災 10年を迎えて

【特別寄稿】これまで、これから ーいわき復興支援の10年ー山崎祐子


【特別寄稿】

これまで、これから
ーいわき復興支援の10年ー

山崎祐子
(「りいの」「絵空」)


2016年より、「復興いわき海の俳句全国大会」を続けている。今年は第6回となり、今回から、「復興」の文字をはずし、「いわき海の俳句全国大会」とした。もちろん、「復興」が終わったということではないが、東日本大震災から10年の節目を迎えたこと、津波被災地に防災緑地の堤防が完成したことをふまえ、いわきの実行委員の皆さんと相談して「復興」の文字をはずすことにした。

この俳句大会は、コロナ禍のため、昨年も今年も、事前投句のみになってしまったが、一昨年までは、大会前日に「いわきの海岸線探訪」として、津波被災地を歩くことを関連行事にしてきた。俳句大会ではあるが、共催団体に、「いわき市復興支援組織プロジェクト傳」と「いわき地域学會」という俳句以外の団体が名を連ねている。これは「海の文化を継承する」という大会趣旨と「いわきの海岸線探訪」を俳句大会の大事なことと考えているからである。「いわきの海岸線探訪」は、もともとは、プロジェクト傳が「海道いわき文化探訪の旅」として2015年まで行ってきたツアーであった。それをほぼ同じコンセプトで「復興いわき海の俳句全国大会」の関連事業として引き継いだ。

この小稿では、「復興いわき海の俳句全国大会」を立ち上げる以前の、プロジェクト傳のことを紹介したいと思う。


プロジェクト傳のこと

なぜ私がいわきの復興支援なのかということを少し書いておきたい。福島県いわき市は私の故郷である。とはいえ、高校卒業以降は首都圏に住み、年に何回かの帰省をするのみであった。高齢の両親のことが心配になってきた頃、東日本大震災が起きた。私の生まれた家は沿岸部ではないので、津波の被害はなかったが、津波で住まいが全壊した親戚もいる。

私の本業は日本民俗学の研究であり、所属している学会の活動として、岩手県、宮城県、福島県、茨城県の地震や津波で被害を受けた地域で支援活動や調査に参加している。その一つに、福島県無形民俗文化財の被災調査があった。故郷のいわき市が私の担当であり、2011年の年末から調査を開始した。そこでお世話になったのが、私が高校時代に恩師である山名隆弘氏であった。山名氏はいわき市平菅波にある大國魂神社の宮司であり、郷土史家でもある。山名氏を通して、津波被害を受けた豊間地区の鈴木利明氏と知り合うことになった。そのようにして調査の中で知り合った皆さんと話しているうちに、官公庁が行う被災調査はもちろん大事であるが、本当に大事なのは、調査の後のことだということを痛感した。研究者として、復興支援に何ができるのか、迷うよりも行動だとも思った。

2012年12月21日 土台だけ残して更地になった豊間地区(撮影=山崎祐子)

いわきで多くの方に会って話を聞き、そして東京に戻って、研究者や俳人と話をすると、そこに微妙な齟齬があるように感じることがしばしばあった。報道ではなく、現場を見てほしいというのは、私ばかりではなく、いわきで活動をともにしている方々の共通の認識となった。2012年4月に、いわき市復興支援組織としてプロジェクト傳を立ち上げたとは、そのような事情からである。


何を見てもらうのか

 いわきに人を呼んで何を見てもらいたいのか。これがもっとも大事なことである。私たちが話し合ったのは、被災地の現状を見てほしいということと、いわきの歴史や民俗芸能を知ってほしいということの二つであった。

被災地はすぐに景観が変わる。全壊と認定された家は、重機が入り、あっという間に家の土台のコンクリートのみが残されて更地になる。土台を残すのは、誰の土地なのかを明らかにするため。この後、防災緑地や堤防を作るための測量をし、用地買収をするからである。3月11日までは、家が並び、人の声や聞こえた町であったのが、風と波の音しか聞こえない。住民ではない私でさえも、その場に立つと、その景色は、ボディーブローのように効いてくる。ここがどうなるのか、見続けないとわからない。

プロジェクト傳に集まった者たちは、郷土史家、元漁師さん、元民宿経営者、民俗学研究者、建築家であり、「文化」をキーワードにしたツアーは、案内人のそれぞれが専門や特技を活かした活動だともいえる。被災地は見せ物ではないのは、当たり前のことである。でも、見ないと何も伝わらない。現場に自分の足で立つとことが大事だということが、私たちの考えであった。きっかけは「被災地だから」であっても、そこに、「文化に触れる」を加え、欲張りなツアーを計画した。

このような地元の思いを受けとどけたいと、ツアーは「いわきの文化財を学び、津波被災地を訪問するツアー」という長い名前のうえに「海道いわき文化探訪の旅」という副題までつけ、口コミで募集した。2012年7月30日、31日の1泊2日で行った。応募者は、俳人が16名、民俗建築学や民俗学などの研究者が11名であった。研究者の中には、富山県や岩手県からの参加者もおり、首都圏だけではない広がりをもつことができた。俳人の参加者が多くて驚いたが、これは、いわき市出身の駒木根淳子さんの広報や、四ツ谷龍さんや関悦史さんのツイッターなどによるものである。

津波の被災を受けた地区では、鈴木利明さんの元自宅の場所に立ち、利明さんから当日の体験談を伺った。利明さんは、地震の後、堤防の隙間を防ぐ板を取り付けていたが、潮が異様に引いたのを見て津波が来ることを直感し、大声で触れ回った。自分自身は逃げる時間がなく、鉄筋コンクリート三階建ての自宅(民宿を営業)に走り、屋上まで駆け上って助かったのだ。ツアーでは、このほか、豊間公民館での交流会や、じゃんがら念仏踊りの稽古の見学、国宝白水阿弥陀堂や常磐炭坑関係施設の見学というように、盛りだくさんの内容となった。

2011年3月11日 いわき市豊間(鈴木利明氏撮影)

俳人と民俗建築学の研究者という組み合わせであったが、フィールドを大切にするということは同じである。参加者にとって、被災地訪問という少し肩に力の入った、または、どのようなスタンスをとればよいか迷うという旅の始まりだったろう。しかし、話を聞き、現場に立つことによって、肩の力が抜けたのではないかと思う。

天気に恵まれた暑い2日間であったが、後の「復興いわき海の俳句全国大会」の開催につながる芽ばえの2日間となった。

2012年7月30日のツアー 津波被災地を歩く(撮影=山崎祐子)


最後に

プロジェクト傳は、東日本大震災の復興支援として始めた活動であって、俳句に関わることになるとはだれも考えていなかった。しかし、結果的に、俳人といわきを結ぶことになった。このような活動は、地元の方々にとってどうなのだろうか。東日本大震災か10年という節目を迎え、一緒に活動をしている地元の方に伺ってみた。「嬉しいこちだ」という答えが返ってきた。山名隆弘氏は、「何が一番つらいかというと、無関心なこと」だとおっしゃる。俳人がいわきに来て俳句を詠むことが、地元にとっての励ましだという。この言葉を励みとして、これからも俳句を愛する方々をいわきに案内したいと思う。俳句は自分の表現として自分のために作るものだと思う。しかし、心にかけて「お変わりありませんか」と声を掛け合い、心を通わすような、言わば存問の力があるのかもしれない。

2019年7月14日 完成した防災緑地(撮影=山崎祐子)

付記 2012年7月のツアーと山名隆弘氏の言葉については、「俳壇」3月号の東日本大震災特集に「愛情の反対語は無関心」の題で書いたので、参照いただければ幸いです。


【執筆者プロフィール】
山崎祐子(やまざき・ゆうこ)
平成2年「風」同人。「風」終刊後「万象」を経て、現在「りいの」「絵空」同人。句集『点睛』(第28回俳人協会新人賞)、『葉脈図』



【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

今年も「復興いわき海の俳句全国大会」の季節がやってまいりました。締め切りは2021年5月31日(月)当日消印有効です。応募用紙または原稿用紙を使って、海に関する1句と自由句1句をお送りください。投句料は1組2句につき1000円です。詳しくは下記のバナーをクリックしてください。

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