特別寄稿

【特別寄稿】屋根裏バル鱗kokera/中村かりん


【特別寄稿】

屋根裏バル鱗kokera誕生の顛末

中村かりん
(「稲」同人)


ある日のグループLINEの書き込み

「とりあえずこの本を読み始めました。」

それまで私の苦手な歴史的仮名遣いの話をしていたはずだった。本の題名は忘れもしない『ゼロから始める繁盛店づくり 飲食店を開店・開業する前に読む本』

写真の貼り間違いかと思ったら本気だという。本気の主は学生時代からの句友の野村茶鳥さん。その場は白熱していた文法と句会の話に戻り狐につままれた気分で会話を閉じた。閉じる間際に集客よろしくね、と本気とも冗談とも取れぬ台詞を茶鳥さんから投げられた。思えばあれが屋根裏バル鱗kokeraの最初のひとかけらだったに違いない。

屋根裏バル鱗kokeraは令和4年7月7日に荻窪は天沼にオープンした。オープンまで超結社句会でたびたび茶鳥さんとは会っていたが、出店はあっという間に決まった。上記の会話が2月とするとわずか5ヶ月でオープンした計算になる。何かに突き動かされるとはまさにこの事だなあ、と思いながら色んな句座を共にした。

上段には「未来図」鍵和田秞子主宰の短冊や著作が、中段には山口草堂や鷲谷七菜子など「南風」歴代主宰の色紙や句集が並ぶ

そもそも私を俳句に誘ってくれたのは茶鳥さんである。私達は若かりし頃通った大学院の同級生で、院から転入した私に「俳句に興味ある?」と聞いてくれたのが茶鳥さん。彼女の専攻は近代文学で担当教官の故首藤基澄先生が未来図の熊本支部長だった。学生好きな素晴らしい先生だった。私は近世文学が専攻でご縁は無かったのだが学生句会に誘って頂いたお陰でよく吟行に連れて行って貰った。私の通学用の車は吟行用の車の頭数に必ず入れられていたのもいい思い出である。その未来図も今はなく、私はへ茶鳥さんは南風へと進んだ。

かりんさんが所属する「稲」主宰の山田真砂年さん。〈ほうたるのあのあたりより地雷原〉。

さて「鱗」の話に戻ろう。久し振りに東京で再会した茶鳥さんはTwitterを駆使して楽しい仲間を集めていた。歌人、詩人、文学に興味ある俳句初心者を集めて句会を主催。そこに俳句を再開したばかりの私もよく呼んで頂き、そろそろ名前を決めようかとの話になった。仲間の1人が持って来た名前が「鱗」だった。漢和辞典から探したという「こけら」という名前は響きが新しく、柿落としにも通じるしなんだかかっこいいね、と満場一致で決定。せっかく歌人もいる事だしってことで今でも歌会と句会を交互に開いている。

ところで屋根裏バル鱗kokeraのクラウドファウンディングをご存知だろうか。茶鳥さんのお店には時々「クラファンで…」とお一人でいらっしゃる方も多い。目標金額100万円のクラウドファウンディングは成功。ここの読者さんにもリターンで一杯、を楽しみにしてくださる俳人さんが沢山いらっしゃるに違いない。荻窪の句友達が内装を手伝い、プレオープンであれこれ注文を付け、夢の様な時間の果てに荻窪に鱗は鎮座している。学生時代、そういえば茶鳥さんの手料理を食べた覚えがない。だが出て来る料理はどれも品が良くて美味しく、私達が離れていた時間が垣間見えた。

店内にはすでに色々な俳人の短冊や句集が並ぶ

そうそう、11月にはお店の壁面を使って新米俳人美大生による2人展『山もうたた寝する頃に』が2週間開催された。武蔵美2年生の勝野竜駿君と中村梨花。そう、我が家の画伯がそのうちの1人である。壁面に鉄製のネットを貼り油絵作品やグッズを展示販売させて頂いた。若い2人に活動の場を与えて頂き個展期間中は美大生や大学生の来店も多かったようだ。

俳人の憧れの酒場といえば「銀漢亭」だろう。今でも句会の何かのついでに「銀漢亭」が話題に登る。俳人協会若手句会のOB会マンハッタン句会を結成したのも「銀漢亭」だった。あの時参加できなかった句友は沢山いるが代わりに荻窪に誘っている。はからずも冒頭のLINEの会話、集客に貢献していることになる。荻窪は天沼、教会通りの煉瓦の素敵な外装の2階にその店はある。屋根裏バル鱗kokera。熊本で出会った私達は荻窪で夢の続きを見ている。ぜひふらりと1人で訪れてほしい。季語の一皿でちょっと一杯。隣の席の人と話せば世界が広がるに違いない。

中村かりん 稲同人
野村茶鳥 南風会員
勝野竜駿 稲会員
中村梨花 稲会員

【店舗情報】

note:https://note.com/chatori_haikuta/

○住所 杉並区天沼3-3-11 2階  098-866-0934
(荻窪駅北口エスカレーター上がる→ロータリーに沿って左→交番隣の横断歩道わたる→左→みずほ銀行横の商店街に入る→野方ホープさんのある最初の角を右へ→レンガのはられた2階建ての2階です)

○営業時間
14~18時ドリンクバータイム
(ソフトドリンクをセルフで。コピー機、コンセントなどご自由に。歳時記や句集、俳句雑誌、短冊などもあります。滞在時間に関係なく500円です)
18時~0時バルタイム
(瓶ビール、ハイボール、生レモンサワー、ワイン、梅酒、ジン、ラフロイグなど。お料理はいろいろ。ご予約の場合はセルフ飲み放題のコースもあります)

○定休日
第一日曜と、毎週月曜
(定休日も、キーボックスがあるので、レンタルルームとしてご利用ください。日中はひとり500円、10人以上で全体で5千円、夜は全体で1万円程度(冷蔵庫利用OK、店内の飲み物一部OK)でご相談にのります。月曜はご予約入れば開店します)


【執筆者プロフィール】
中村かりん(なかむら・かりん)
」同人。熊本県生まれ。川崎市在住。区役所古典講座講師。天然石アクセサリー製作販売「marica」。句集『ドロップ缶』(中村ひろ子名義)にて第22回自費出版文化賞特別賞受賞。


#俳句酒場へようこそ

沖縄県那覇市久米「KIMIKO BAR ふう」/酢橘とおる

愛媛県松山市「ホヤケン」/田中泥炭

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