立冬や日向に立てば湧く力
名取里美
『森の螢』より
11月7日は立冬・・・あぁ、また冬が始まってしまう。
末端冷え性で、暖かいはずの横浜に住んでいても霜焼けができる私はやっぱり冬が苦手だ。特に冬至にむかって日に日に暗くなるのが早くなるこれからの時期が精神的に堪える。寒さにもようやく慣れて、冬至を過ぎる頃になると気持ちは少し上向きになるのだけれど。ということで、今日は元気をもらえる一句を!
立冬や日向に立てば湧く力
日向に立って、ただただその日差しを享受しながらエネルギーチャージをしているイメージ。自然と息が深くなり、血管の隅々にまで血がいきわたる。ちょっと嫌なことがあった日でも、こんなひと時を持つことができれば、また歩きだせそうな気がすると思える。
いいなぁ、この優(易)しい言葉と向日性。
「立冬や」の切れ字で少し引き締まった気分に、「日向に立てば」と流れるような中七を経て、「湧く力」と名詞で終わる。「力湧く」でないことが大事、よりぎゅっと力が漲る印象で一句が立ち上がってくる。何よりも口に出して読むだけで、静かにさりげなく励まされるような気持ちになれるところが好きだ。
作者の名取里美さんは1961年生まれ、「夏草」を経て「藍生」へ。2023年3月、黒田杏子氏の急逝後、同年12月に「あかり」を創刊された。2020年刊行の第4句集『森の螢』には〈ふりしぼる終の光を青螢〉〈われ立てば森の螢のふえゆくも〉など、印象的な螢の句が多くある。先日お会いする機会に恵まれたが、本当にやわらかい雰囲気の方で、掲句のもつ温かさを内包されていらっしゃるなぁと思って嬉しくなってしまった。
冬になるとついつい引きこもりがちになってしまうけれど、健康維持、特に骨粗しょう症にならないようビタミンDを生成するためには日向に出て紫外線を浴びることが大事。手のひら日光浴を10分するだけでも効果があるらしい。
ご高齢者も引きこもりがちになる冬、今月のモニタリング訪問時には「日光浴をしましょう」と説いて回ろう。この句を添えて。
さぁ冬が始まる!ぽかぽか温かい気持ちになれる俳句に、今年もたくさん出逢えますように。
(黒澤麻生子)
【執筆者プロフィール】
黒澤麻生子(くろさわ・まきこ)
1972年千葉県生まれ。1999年「未来図」入会。2004年未来図新人賞受賞。2005年「未来図」同人。俳人協会会員。2009年「秋麗」創刊に参加。2017年刊行『金魚玉』(ふらんす堂)により第41回俳人協会新人賞・第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。2021年未来図後継誌「磁石」創刊に参加。現役ケアマネジャー。
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
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