
窓眩し土を知らざるヒヤシンス
神野紗希
コロナ禍が始まった2020年の春、家の中にどんどん花が増えていった。式典などがキャンセルになった花屋応援のために切花を買い、狭いベランダでバーブも花も野菜も果樹もと欲張りなガーデニングを始め、さらに自然を切望して部屋の中には観葉植物を増やした。在宅勤務の大人二人と3歳児(当時)が暮らす散らかったマンションの至る所で、花がぽんぽんと咲いていた。
それから三年が経ち流石に少しは落ち着いたが、ベランダにはローズマリーや複数の薔薇、レモンの木とブーゲンビリアの鉢が元気に残っているし、室内のパキラも青々と葉をつけている。そしてちょうど今、リビングでは水耕栽培のヒヤシンスが綺麗に咲いている。
掲句は神野紗希さんの第三句集「すみれそよぐ」より。「土を知らざるヒヤシンス」とはまさに水耕栽培のヒヤシンスのことだろう。冬から春にかけて南向きのリビングの窓には、太陽の角度の関係で日差しがよく入る。ヒヤシンスが見たくて顔を向けると、花瓶に張った水もその中の真っ白な根もつやつやの葉も、きらきらとして見えた。まさに「窓眩し」である。水と土、ヒヤシンスにとってどちらが好ましいのかは聞けないからわからないけれど、水を張ったガラスの器で窓際に置かれたヒヤシンスはクリーンな生命力に溢れていて、独特の美しさがあるのは確かだ。
水耕栽培は簡単だ。毎年秋になると園芸店に球根が入荷するのでいくつか買っておく。寒さに当てる必要があるので、新聞紙に包んで冷蔵庫の野菜室で1〜2ヶ月放置。12月に入ったら水耕栽培のセッティングを始める。専用の花瓶は百均にも売っているし、フラペチーノの空きカップや、500mlペットボトルの上部分を切ってひっくり返したものでも大丈夫だ。最初は球根のお尻が触れるまで水を入れる。水の入れ替えは、濁っていなければ一週間に一度でいい。根が伸びてからは水の量を半分くらいにする。切花のように毎日水を取り替えたり、切り戻しも必要ない。日々目に見えて成長するので、楽しいし初心者向きだと思う。
ただ最初から窓辺におくのはダメで、最初はできるだけ暗くて寒いところに置く。一月くらいそうして、芽が出てから光の窓辺へと連れてくると、そこからぐんぐんと気持ちよく伸びる。そうしてみな一斉に花を咲かせる……となれば良いのだが、何故かそうとはいかない。
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