【春の季語=仲春(3月)】三椏の花
三椏は、ジンチョウゲ科のミツマタ属の植物で、中国中南部・ヒマラヤ地方が原産地。
3月から4月ごろにかけて、三つ叉(また)に分かれた枝の先に黄色い小さな花を球体上に咲かせることから、その名前がある。
樹皮は和紙や紙幣の原料として用いられることもあり、春の季語としては「三椏の花」とまで言わねばならぬ(あるいは「咲く」という言葉を入れるほうがよい)というのが共通了解であるが、〈三椏や英国大使館鉄扉〉(佐藤鬼房)のように、「三椏」だけの用例がないわけではない。
万葉集には、
春さればまず三枝の幸さきくあれば 後にも逢むな恋ひそ吾妹
柿本人麻呂、『万葉集』10巻-1895
という歌があり、枝が三つに分かれるミツマタは昔は「サキクサ」と呼ばれていたと考えられている(「サキクサの」という言葉は、「三(みつ)」に係る枕詞ともなった)が、本当にそうであるかどうかの保証が完全にあるわけではない。
とはいえ、「三椏の花」は、家系図のようにどんどんと花が分岐していくかたちや、その明るい色から、春の本格的な訪れを感じさせる幸福感ある花のひとつである。
【三椏の花(上五)】
三椏や皆首垂れて花盛り 前田普羅
三椏の花に光陰流れ出す 森澄雄
三椏の花三三が九三三が九 稲畑汀子
三椏の花の膝下といふべしや 上田日差子
【三椏の花(中七)】
雨やさし三椏三つに咲くことも 安住敦
【三椏の花(下五)】
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】