ハイクノミカタ

初春の船に届ける祝酒 中西夕紀【季語=初春(新年)】


初春の船に届ける祝酒

中西夕紀


新年いかがお過ごしでしょうか。

今年は二日三日が土日と重なっているため、四日が仕事始めの筆者は正月休みが短くてなんだか損をした気分。でも、新年早々後ろ向きな言葉を口にすると福の神にそっぽを向かれかねないので、慌てて前言を飲み込み2021年最初の土曜日の俳句の紹介と参ります。

初春の船に届ける祝酒  中西夕紀

実に晴れやか。技巧を凝らさない詠みぶりの大らかさも正月らしく目出度き一句だ。

日用品を積み込むなどして間近い出港に備える船に酒が届く。漁業には平日も祝日もない。元旦を陸で過ごしても、三が日の明ける前に再び漁に出ることもあるに違いない。

句意は自ずと明らかだが「届ける」に注目してみよう。見知らぬ寄港地で買った酒を酒屋に届けさせているわけではない。勿論そのような読みも可能だが、大方の人は届ける側と受け取る側の間に親密な人間関係が存在していることを直感する筈だ。親戚や地元の仲間だろうか。遠洋漁業ならばいったん港を出たら暫く戻って来られない。

「じゃあな、気をつけて行ってこいよ。」

「おう、帰ったら連絡するよ。また飲もうな。」

そんな短い会話が交わされる一コマを想像する。そうして渡される祝酒は豊漁と航海の安全、そして無事の帰還を待つ者からのエールだ。

もう一つ分かるのは、作者が送り出す側の立場から詠んでいることだ。中七の部分を「船に届きし」としてもシーン自体は変わらない。がそれでは焦点が酒になってしまう。「届ける」に自発的な意志を見るからこそ、私たちは作者と港に立ち、新たな航海に出て行く漁師たちを寿ぎながら見送るのだろう。

句の本意からは外れるけれど、今日はたまたま二日。ちょっと強引だけれど、「初春の船」と言えば宝船ではありませんか。七福神に美酒をお届けすればとっておきの初夢を見させてくれるかも⁇

戯言はともかく、2021年という船は碇を上げ、大海原へ漕ぎ出した。

Bon Voyage!

(『くれなゐ』本阿弥書店 2020年より)

太田うさぎ


【執筆者プロフィール】
太田うさぎ(おおた・うさぎ)
1963年東京生まれ。現在「なんぢや」「豆の木」同人、「街」会員。共著『俳コレ』。2020年、句集『また明日』



【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 略図よく書けて忘年会だより 能村登四郎【季語=暖房(冬)】
  2. しろい小さいお面いっぱい一茶のくに 阿部完市
  3. こほろぎや女の髪の闇あたたか 竹岡一郎【季語=蟋蟀(秋)】
  4. 大空に伸び傾ける冬木かな 高浜虚子【季語=冬木(冬)】
  5. いちじくを食べた子供の匂ひとか 鴇田智哉【季語=いちじく(秋)】…
  6. 美しき緑走れり夏料理 星野立子【季語=夏料理(夏)】
  7. ごーやーちゃんぷるーときどき人が泣く 池田澄子【季語=ゴーヤー(…
  8. はなびらの垂れて静かや花菖蒲 高浜虚子【季語=花菖蒲(夏)】

おすすめ記事

  1. 【新年の季語】包丁始(庖丁始)
  2. 馴染むとは好きになること味噌雑煮 西村和子【季語=雑煮(新年)】
  3. 特定のできぬ遺体や春の泥 高橋咲【季語=春の泥(春)】
  4. 神保町に銀漢亭があったころ【第68回】堀田季何
  5. ここは敢て追はざる野菊皓かりき 飯島晴子【季語=野菊(秋)】
  6. 仰向けに冬川流れ無一文 成田千空【季語=冬川(冬)】
  7. 春を待つこころに鳥がゐて動く 八田木枯【季語=春を待つ(冬)】
  8. 春日差す俳句ポストに南京錠 本多遊子【季語=春日(春)】
  9. パンクスに両親のゐる春炬燵 五十嵐筝曲【季語=春炬燵(春)】
  10. 木の根明く仔牛らに灯のひとつづつ 陽美保子【季語=木の根明く(春)】

Pickup記事

  1. 【冬の季語】忘年会
  2. 遊女屋のあな高座敷星まつり 中村汀女【季語=星まつり(秋)】
  3. 【新年の季語】二日
  4. いぬふぐり昔の恋を問はれけり 谷口摩耶【季語=いぬふぐり(春)】
  5. 【冬の季語】冬蟹
  6. Tシャツの干し方愛の終わらせ方 神野紗希【季語=Tシャツ(夏)】
  7. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第28回】草津と村越化石
  8. 【#28】愛媛県の岩松と小野商店
  9. 「野崎海芋のたべる歳時記」蕪のクリームスープ
  10. 初旅の富士より伊吹たのもしき 西村和子【季語=初旅(新年)】
PAGE TOP