紙相撲かたんと釣瓶落しかな 金子敦【季語=釣瓶落し(秋)】

紙相撲かたんと釣瓶落しかな

金子敦

 秋分の日、早起きできたので静岡までハンバーグを食べに行くことに。「さわやか」は行列で有名なハンバーグレストラン。9:00には長泉店に到着した。同店では整理券の配布は10:00から。まだ行列ができないの近くでぼうっとしていたら店員さんに「お並びになるならこちらへ」と案内されたのでそのまま行列の先頭に立った。1番の整理券を受け取ると10:30の開店を待ち一番に入店。すぐにオーダーした。料理を待つ間、ペーパーテーブルクロスの間違い探しに没頭。なかなかの難易度で、待つという感覚はほとんどなかった。

 上下や左右を見比べる間違い探しは、答え合わせをしながらできるので比較的取り組みやすい。一方、画面が切り替わるタイプは前の画面を覚えていないといけないので一気に難易度が上がる。徐々に絵の一部が変化するのを見つけるクイズはアハ体験と呼ばれている。これはネーミングセンスのおかげで達成感が倍増する。

紙相撲かたんと釣瓶落しかな

 片方がかたんと倒れて紙相撲の勝負がつくように突然夕闇が訪れた。紙相撲を見ていて釣瓶落しのようだと感じと鑑賞することもできるが、私は前者として味わいたい。

釣瓶落しは「今まさに」というよりは気が付けばとっぷり暮れていた時に実感することが多い。そのため実際には徐々に進行しているのに、まるで急に暗くなったように感じるのだ。もともとは秋の日の落ちる速さをたとえたものなので、天文の季語でありながら主観的なニュアンスもある。その釣瓶落しを「かたん」の一言でいいとめた。さらに、「かたん」を引き出すのに紙相撲が良いきっかけとなっている。

 しばらく空を見た後、ふと考え事をしたり別のものを見たりしてから視線を戻すとその暮れように驚く。画面が切り替わるタイプの間違い探しのようだ。それはどれほど急なのか、釣瓶落しを見届けることをもっと意識してみても良いのかもしれない。

 ほかにも好きな句を。

  啓蟄や筆立てに筆ひしめいて

  野分あと手紙をひらくやうに空

  水平になれぬシーソー鳥雲に

  バリカンが耳に近づく残暑かな

  天高し部室の裏に洗濯機

  菜の花や戸板に舟の時刻表

  永き日や茶碗は沈み箸は浮き

『ポケットの底』(2025年刊)所収。

チーズハンバーグをオーダーしたけど、イベントとしてはげんこつハンバーグ(奥)にすべきだった

狩野川さくら公園にも立ち寄りました

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



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