
お降りといへる言葉も美しく
高野素十
本年もどうぞよろしくお願いします。今年は2026年で、令和8年。西暦と元号、両方覚える頃にはいつも年が明けてしまうのだが、令和に関しては奇数か偶数かが一致しているのでどちらかを覚えればなんとなく見当がつく。2026年ということはなんとかインプットできたので偶数同士ということで令和8年にたどり着くことができるだろう。
自分の年齢も今の年齢から生まれた年を引き算して導いている。人の年齢は自分との年齢差で覚える。全くもって、数字関係は苦手だ。
お降り(御降)とは元日または三が日に降る雨や雪のこと。「降る」という響きが「古」につながるための言い換えである。お降りがあることは豊年の兆しとされた。
正月にはほかにも「嫁が君」(鼠の言い換え)や「鏡開き」(「割る」の代わりに「開く」)などの特殊な言葉が行きかう。正確には句会で出会う機会が増える。「鏡開き」以外は実生活においては句友にしか通じないものだろうと思っているところもあり、あまり使うことがない。「嫁が君」には出会うことが難しい。「お降り」は独り言のように口にすることを止めることができない。偶然そこに居合わせた人が「それ何?」と聞いてくれたら私は喜んでその人を句会に誘うだろう。
お降りといへる言葉も美しく
雪がちらついてきたのを見て「お降り」という言葉が出てきた。心の声と考えても良いし、家族や友人同士の会話とみても良いだろう。「雪が降ってきた」というのもさほど悪くない言いまわしだが、めでたさを少しでも失わないために言い換えた「お降り」という言葉の意味や響きをかみしめている。これは雨ではなく雪の景色だろう。雪の美しさに言葉の美しさを重ねているのだ。雪が美しいから「言葉も」の「も」が生きてくるのである。
言葉の美しさを詠んだ句としてとらえても良いが、「も」の効果を読み取りたい。正月の淑気の中降りしきる雪の美しさがどれほどのものだったかというと「お降り」という言葉が持つ礼儀正しさや緊張感ほどだったということを写生しているのである。
素十が見たであろう景色や「お降り」という言葉の美しさについて考えていると「いへる」というさりげなく使っている動詞まで美しく見えてくる。「美しき」ではなく「美しく」と言いさしにしたその先の広がりにまで思いが及んでしまう。
「お降り」を字面だけでとらえていたらこのような境地に至ることはないだろう。目の前に確固たる美しい景色があるからこその発見。この記事がアップされる当日、関東地方はくもり時々晴れの予報。お降りは心の中でこの句をスイッチとして再生してみよう。
『雪片』(1952年刊)所収。
(吉田林檎)
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
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