コンゲツノハイク【各誌の推薦句】

【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2023年5 月分】


【読者参加型】
コンゲツノハイクを読む
【2023年5月分】


ご好評いただいている「コンゲツノハイクを読む」、2023年もやってます! 今回は12名の方にご投稿いただきました。ご投稿ありがとうございます。(掲載は到着順です)


焼窯にナン貼り付ける開戦日

タルタルスキー

「楽園」11号より

怖い言葉も残酷な描写もない。焼窯にナンを貼り付けている、ただそれだけなのに、なぜか戦争というものの本質にざらりと触れたような気がする。これはピザでもだめでパンでもだめで、やはり「ナン」だからこそ、外からは見えない高熱の窯の中で焼かれる、あやふやな形のあの「ナン」だからこそ、謎めいた面白さと言い知れぬ不気味さが滲み出てくるのだろう。終戦記念日とインドの独立記念日が同日であるという事実(※)も、ふと脳裏をよぎった。
※日本の降伏が国民に公表されたのは1945年8月15日、インドがイギリスから独立したのは2年後の1947年8月15日。

 西生ゆかり/「街」)


春を待つ埴輪の兵の幼顔

西山純子

「鷹」2023年5月号より

埴輪にも様々なものがある。踊る埴輪、笑う埴輪、女性の埴輪。この句の眼目は、兵士の埴輪の顔付を幼いとみたところである。そういわれて、兵士の埴輪を見ると、確かに幼い。幼さが、春を待っている。

加瀬みづき/「都市」)


海原も枯野も星の棲むところ

山田佳乃

「ホトトギス」2023年5月号より

「星の棲むところ」であって星が棲んでいるとは書かれていない。一つの解釈として、中七の枯野もかつての海原であったということを踏まえているのではないだろうか。つまり、この枯野も本来は星の棲むところ、海原であった、ということである。そうであるならば、今も海原に星が棲んでいるのかは分からないけれど、恐らく枯野には棲んではいないことになるだろう。そうやって元来星の棲むところに我々含む全ての生命は間借りしているのかもしれない。だんだんと枯野に海原が二重露光のように映ってきて目眩を覚える。

田中目八/「奎」)


湯豆腐の滾るは詐欺に遭ひし夜

武田正

「櫟」2023年4月号より

ひとを信じて騙されてしまった。裏切られたショックと怒り、なぜ詐欺と気づかなかったかという自責の念が渦巻く。これからどうしよう(金銭面でも、他人を信じるという面でも)と途方に暮れながらとる晩ご飯の、湯豆腐はぐつぐつと滾っている。豆腐の白色と出汁の澄んだ色、連続的に湧き上がる泡は、疲れきった頭をつかの間、「無」の世界へと誘う。しかし、「あぁこんなに滾っている、食べなければ」と意識の世界へ戻った瞬間、不安と怒りはまさに泡のように、再び際限なく襲ってくる。目の前の熱い熱い湯豆腐は、画鋲のような助詞「は」によって、無限の時空間の中の一点、心身の奥から冷えきるようなその夜の上へと留められる。

笹野夕


電車音「ごめんごめん」と冬夕焼

戸上晶子

「稲」2023年3月号より

近くの線路から電車の音が聞こえる。がたんごとん、がたんごとん。電車通勤をしていたころを思い出して、もう一度、聞いてみよう。がたんごとん、がたん、ごめんごめん。遅れた電車がやってきた。電車の中に入る。ご飯のうえにしゃもじで押しつけられるご飯つぶの気持ち。ぎゅうぎゅう。遅れたことをお詫びする車内アナウンスに呼応して、電車はごめんごめんと音を立てながら目的地へ向かう。冬夕焼を浴びる電車内の乗客は、トマトソースが恋しい顔をしている。

高瀬昌久


末黒野や少年Aの過去未来

辻 忠樹

「いには」2023年4月号より

「少年A」は犯罪を犯した少年のことであろう。少年らによる銀座宝石店強盗事件のニュース等ショッキングな報道がなされるので誤解しがちだが、昨今少年犯罪の件数は著しく減少している。少年の再犯率は成人よりも低く更生する可能性も高い。
 さて掲句。犯罪少年の過去未来を「末黒野」と取り合わせた。末黒野は春に野焼きをした後の黒々とした野原。害虫を駆除し新たな芽吹き・草の成長を助けるために枯草を焼く。過去を清算し輝かしい未来を迎えるための行為である。更生していくであろう少年Aの未来を詠んだ絶妙な取り合わせの一句。

種谷良二/「櫟」)


バス停の雪塊つつき杖の穴

井上圭子

「田」2023年5月号より

バス停にこんもりと雪の塊が残っている。バスを待っているとき、手持ち無沙汰でそれをつんつんと突いている。「バス停の雪塊つつき」まで読んで、多くの読者がこどもを想像したと思う。そして突然の下五「杖の穴」。雪塊をつついていたのは、杖だったのだ。つまり高齢者だ。(高齢ではない足が不自由な人の可能性もあるけれど、高齢者と思っておく。)好奇心旺盛な高齢者を見るとわたしは嬉しくなる。ファミレスのドリンクバーでいろいろなジュースを混ぜて楽しんでいた高齢者の集団を見たときも嬉しかった。

千野千佳/「蒼海」)


啓蟄や蛇にも虫にもなる粘土

春田千歳

「閏」2023年4・5月号より

はらっぱの地面の下の
秘密の工場
妖精さんが働いている
粘土からこねこね
蛇やら虫やら作ってる
ぽかぽかぽかぽか春がくる
すると工場の天窓があく
するとつぎつぎ天窓からは
蛇とか虫とか出てくよ
はらっぱに出ていくよ

月湖/「里」)


ガラスペン寒九の水に黒を解く

加藤剛司

「伊吹嶺」2023年4月号より

ガラス特有の透明感と繊細な美しさで人気のガラスペン。万年筆を持っているが、インクを詰めたものの、使用頻度が少なく、インクが乾いてしまったり、手入れが大変。しかし、硝子ペンを購入して手軽にいろいろな色も楽しめる、「インク沼」にはまってしまった。寒九の水は、寒仕込みの仕込水に使われたり、滋養、栄養なども含まれていそう。気持ちもあらたまるこの日、硝子ペンを使って1句したためたのかも。

野島正則/「青垣」・「平」)


春ショール回送電車暗く過ぐ

小竹万里子

「鷹」2023年5月号より

照明の消えた無人の回送電車は、人の気配がないというだけでなぜあんなに不気味なのだろう。通り過ぎる回送電車をフィルターとして、向こう側のホームに春ショールの人が見えたのだろうか。回送電車が過ぎ去ったら、ホームに春ショールの人はまだいるのか、暗い電車が連れ去ってしまったかのように、忽然といなくなっているのか。ふわふわと心許ない春ショールの人の消息が気になる。

藤色葉菜/「秋」)


芋植ゑて東京の子に金送る

橋本耕二

「鷹」2023年5月号より

「芋植ゑ」「金送る」の即物的な表現に、二者の乖離を感じました
芋と金は、親と子、故郷と東京とも読めます
それらにも「芋植ゑ」「金送る」の即物的な表現における乖離を感じます
その芋と金の間にあるのが「東京の子」です
「東京の子」は、それら乖離と断絶の空隙を満たしています
親が子に仕送りをする
芋と金はそこにあり得る事情を様々に想像させますが、「東京の子」はそれらを私的で主観的なドラマとして伝えてくれます
そこに普遍性があるのだと思います

土屋幸代/「蒼海」)


ぼろ市や家にあるもの並べたき 

進藤沙世子

「かつらぎ」2023年4月号より

売る側の、ほんの少しでもお金になれば、とか、これは結構高額になるはず、などは人それぞれ、品それぞれであろうが、ひやかしながら「これを売れるなら家のアレを」と思ったか。ぼろ市から帰ってもアレは家におかれ続けるかもしれない。「たき」は最近よく使われる話しことば「良き」を思いおこす。ぼろ市の品々を一つ一つ楽しむ姿を想像する。

弦石マキ/「蒼海」)




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