ハイクノミカタ

をどり字のごとく連れ立ち俳の秋 井口時男【季語=秋(秋)】


をどり字のごとく連れ立ち俳の秋

井口時男


「をどり字」は、「同じ漢字や仮名を重ねるときに用いる符号」である。送り字ともいう。

「あゝ」の「ゝ」や、「国々」の「々」など、いくつか種類があるが、これは二つ以上の文字を繰り返す「くの字点」のことであると解した。

全体から見て、これは俳句の吟行をしている一団を(真上か、あるいは後方から)客観的に描いたもの。

俳人はあちこちに見回し、何かを見つけると集団を離れてしまう習性があるので(経験上、こればかりは仕方ない)、まっすぐな列ではないにしても、「をどり字」=「く」のかたちになって歩いているのは、まだまだお行儀がいいほうである。

ただ、「く」を構成しているいくつかの点が散り散りとなり、まさにランダムに踊りだすまでには、それほど時間はかかるまい。迷子になるといけないから、全員がいるかどうかを確認しては、また「く」のようなかたちになるが、それもつかのま、またバラバラに。

そんなことを繰り返しながら、あちこちに小さい季節の変化を見つけることに関しては、やはり春でもなく夏でもなく、ましてや冬でもなく、やはり秋に限る。

私が所属している結社に、毎月吟行を開催している句会があるのだが、コロナ禍では吟行を再開したけれど、句会はせずにその場で解散になるという。比較的、高齢者が多いということもあるのだろうが、なかなかどうして、である。

とりあえず、ワクチンが開発され、問題なく入荷できるまでに量産できる体制がととのうまでは、吟行もこのような状況が続くのだろう。

新型コロナウイルスは、無症状のことも多いが、条件が悪ければ、けっして侮れない病気である。いまは辛抱の時だろう。

いつか吟行のち、句会が開催できる日を楽しみにしつつ。

『をどり字』(2018)より。(堀切克洋)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 渚にて金澤のこと菊のこと 田中裕明
  2. 泣きながら白鳥打てば雪がふる 松下カロ【季語=白鳥・雪(冬)】
  3. 底冷えを閉じ込めてある飴細工 仲田陽子【季語=底冷(冬)】
  4. 宝くじ熊が二階に来る確率 岡野泰輔【季語=熊(冬)】
  5. 虹の空たちまち雪となりにけり 山本駄々子【季語=雪(冬)】
  6. 秋虱痼  小津夜景【季語=秋虱(秋)】
  7. 待ち人の来ず赤い羽根吹かれをり 涼野海音【季語=赤い羽根(秋)】…
  8. 猫と狆と狆が椎茸ふみあらす 島津亮【季語=椎茸(秋)】

おすすめ記事

  1. 切腹をしたことがない腹を撫で 土橋螢
  2. 霜柱五分その下の固き土 田尾紅葉子【季語=霜柱(冬)】
  3. 目のなかに芒原あり森賀まり 田中裕明【季語=芒(秋)】
  4. 菊人形たましひのなき匂かな 渡辺水巴【季語=菊人形(秋)】
  5. 【書評】菅敦 第1句集『仮寓』(書肆アルス、2020年)
  6. 【第6回】ラジオ・ポクリット(ゲスト:阪西敦子・太田うさぎさん)【前編】
  7. なんぼでも御代りしよし敗戦日 堀本裕樹【季語=敗戦日(秋)】
  8. 【春の季語】三月
  9. 蝶落ちて大音響の結氷期 富沢赤黄男【季語=結氷期(冬)】
  10. 葛の花こぼれやすくて親匿され 飯島晴子【季語=葛の花(秋)】

Pickup記事

  1. 「パリ子育て俳句さんぽ」【6月18日配信分】
  2. 【夏の季語】花火
  3. さわやかにおのが濁りをぬけし鯉 皆吉爽雨【季語=爽やか(秋)】
  4. 【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2021年10月分】
  5. 【#43】愛媛県歴史文化博物館の歴史展示ゾーン
  6. 昼の虫手紙はみんな恋に似て 細川加賀【季語=昼の虫(秋)】
  7. 鶯に蔵をつめたくしておかむ 飯島晴子【季語=鶯(春)】
  8. 天高し風のかたちに牛の尿 鈴木牛後【季語=天高し(秋)】
  9. 倉田有希の「写真と俳句チャレンジ」【第3回】
  10. 詠みし句のそれぞれ蝶と化しにけり 久保田万太郎【季語=蝶(春)】
PAGE TOP