一匹の芋虫にぎやかにすすむ 月野ぽぽな【季語=芋虫(秋)】


一匹の芋虫にぎやかにすすむ

月野ぽぽな


長らくニューヨークに住む作者は、2017年に第63回角川俳句賞を受賞したが、そのときの受賞作でもっとも印象に残った句のひとつがこれだ。

郷里の信州を想った句だろうか。通常、「にぎやか」という言葉は、喋り方や音などに使う言葉だが、この「にぎやかに」はそれを色に、あるいは動きに転用している。よほど発色がよく、よほど元気な芋虫なのだろう。

その動きの向こう側に、バグパイプを伴った一楽団の奏でる音楽が聞こえてきそうなほど。

一方、小澤實の歳時記などにも掲載されている代表句に、〈芋虫のまはり明るく進みをり〉という句がある。こちらは逆に動きを「明るさ」に転用している句だ。

また、小澤の芋虫が、五七五のリズムに帰順させられているのに対し、ぽぽなの句は、ゆるやかな句またがりで「五七五」というよりは、「九八」のリズムだ。

どちらも十七音に変わりはないのだが、やはり「九八」のリズムのほうが躍動感に満ちている。

複雑怪奇なる世界を、たった「一匹の芋虫」の動きだけに単純化している。世界の単純化とは、捨象=抽象(アブストラクション)という作業であり、つまるところ、ほかの一切の要素を削ぎ落としてしまうことだ。

俳句の場合、作者の選び取った17音は、いつしか「世界とはこういうものだ」という宣言へとすりかわる。

いつも明るく前向きな作者。世界はよろこびと明るさに満ちていなければならない。

(堀切克洋)

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