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台風や四肢いきいきと雨合羽 草間時彦【季語=台風(秋)】


台風や四肢いきいきと雨合羽

草間時彦


荒れやまぬ暴風雨のなかで、人間は〈動物〉にならざるをえない。とくに食肉されるような動物のことを、フランス語では「キャトル・パット(quatre pattes)」というが、これはまさしく「四本の脚」を意味する。

近頃は、わざわざそんな危険なところにいかなくても、と批判的な声も多くなったが、少し前までは報道番組などでは現地入りしている記者が、暴風雨のなかで台風の強さを身をもって伝えるというのが、この時期の「風物詩」でもあった。

しかし思うにあれは、人間が人間でなくなり〈動物〉に変貌する瞬間を、古代ローマの円形闘技場のごとく見世物として、あるいは生贄として捧げるという行為のまねごとだったのではないか。

そうでも考えなければ、記者やキャスターが「身をはる」ことの正当性を見つけるのは、むずかしい。

そして視聴者の前に犠牲として捧げられるとき、彼らは間違いなく「雨合羽」を身に纏っていた。それは、彼らが供儀の舞台にあがるために絶対的に必要な「衣装」だった。

いわば、一種の演劇的装置だったのである。

もちろん、この句からは文字通り、台風を喜んでいる子供の「いきいき」とした姿を浮かべる読者もいるだろう。人間になることを強いられている子供たちが〈動物〉に戻ろうとするのが愛らしく見えるのは、彼らがまだ人間になる途上にいるからであって、社会への恭順を強いられた哀れな大人たちが〈動物〉になるのを見ることには、やはり一種の嗜虐精神が貼り付いていると言わねばならない。

いずれにしても、この「いきいき」は単純な生命讃歌などとは遥かにほど遠い、死や血の匂いが感じられる――というのは、やや深読みのしすぎであろうか。『中年』(1965)より引いた。

少し話は変わるけれど、台風と演劇ということですぐ思い出されるのは、ク・ナウカ(宮城聰主宰)が2004年の秋に、上野の東京国立博物館で上演した野外劇「アンティゴネ」だ(この作品は、 SPAC-静岡県舞台芸術センターの作品として、2017年7月にフランスのアヴィニヨン演劇祭のメイン会場・法王庁中庭のオープニングを飾ることになった)。

私は残念ながら、2004年夏に横浜・馬車道のBankArtで上演されたプレビュー公演しか見ていないのだが、秋の本公演はNHKで放映されたのである。このとき、収録の入った日には台風が襲い、俳優たちは大雨に打たれながらの文字通り「劇的」な作品となったものが、放映されたのだ。

私は、2017年の「アンティゴネ」も見る機会がなかったのだが、2014年に同演劇祭で上演された「マハーバーラタ」(これは巨匠ピーター・ブルックがかつて8時間におよぶ大作を発表したのと同じブルボンの石切場で上演された)は留学中だったので、見る機会を得た。

初日のチケットを予約していたのだが、このときもミストラル(日本でいう「やませ」のようなもの)の影響で、この野外劇は中止となり、慌てて翌日のチケットを取り直した記憶がある。ちなみにこれらの作品の演出家の宮城聰は、演劇界では「雨男」として知られているが、どちらかといえば「嵐を呼ぶ男」である。(堀切克洋)

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