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鶏たちにカンナは見えぬかもしれぬ 渡辺白泉【季語=カンナ(秋)】

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鶏たちにカンナは見えぬかもしれぬ  

渡辺白泉 


日本でユクスキュルの代表的著作『生物から見た世界』が翻訳紹介されたのは、1942年のこと。この白泉の有名句は1935年の作だが、きわめてユクスキュル的発想に近い。ただし、ニワトリにとって最もよく見える色は、カンナと同じ赤色であり、カンナの赤は見えていてもおかしくはない。しかし、つぎつぎにニワトリたちが、炎天下で赫赫と咲いているカンナには見向きもせず、あさっての方向に向かっていくではないか。こんなにもわかりやすく、見えているはずのものが、実は見えていないのではないかというのは、ふと恐怖とはいかないまでも、ある種の不安を感じさせる。時代状況をかんがみれば、すでに1931年の満州事変を経て、盧溝橋事件にはじまる日中戦争へひたひたと向かっていたころの句であり、さて現在のわたしたちは血のようなカンナの赤色が、しっかりと見えているだろうかと、思われてくる。(堀切克洋)

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