【新連載】きょうのパン句。【#1】BEAVER BREAD


みなさん、パンはお好きですか? 
俳句とパンをこよなく愛する吉田発酵さんに、パン愛を語ってもらう新コーナーです。
パンを食べれば、いい俳句ができるかも🥐


【#1】
BEAVER BREAD
(馬喰横山/東日本橋)

こんにちは。
みなさんパンはお好きですか?
この連載(?)では、筆者が食べたパンに俳句を添えて、お届けしようと思います。

いま、日本のパンはかなりヤバいことになっています。
パンが美味しくなりすぎている。
「新時代」来てるな、と思ってます。

農林水産省は、2016年度から都道府県の自治体に「和食給食」に補助金を出しはじめました。これによって「若者のパン食離れ」が進行してるなんて言われたりもします。コストの高騰もあります。パンはぶっちゃけ「嗜好品」になりつつあります。

むかしは映画一本見るのにお金も時間もかかったけれど、いまはスマホで格安で見られる「コンテンツ」になり下がりました。つまり映画は特別なものじゃなくなってしまった。シネフィルであることがアイデンティティになったのも昔の話です。

だけど、いま「パンを愛すること」は、社会的なアイデンティティになる。パンを愛することが、生活を豊かにしてくれる。なぜなら、パンには「自分だけがこれを食べている」という特権的な背徳感があるからです。そして、その美味しさの裏には、「世界でただひとつのパン」を目指す職人の「パン愛」があるからです。

前口上はこのくらいにしておくとして、そろそろ本題に入りましょう。
とはいえ、俳壇的には無名なわたくしです。俳句は下手の横好きということで、俳句愛の深いみなさまには、あたたかな目で見守っていただければ……

初回に取り上げるのは、2017年11月に馬喰横山に爆誕した「BEAVER BREAD」です。

BEAVER BREADは、銀座の名店で腕を磨いたパン職人の割田さん(1977年生まれ)が、”街のパン屋さん”をコンセプトに生まれたお店。2023年末には「虎ノ門ヒルズ」に「BEAVER BREAD BROTHERS」をオープンさせ、大出世しています。夜になると、バーとしての営業もあり。

馬喰横山のBEAVER BREADは、売り場が「2畳」くらいの極狭なんですが、そこにめいっぱいの種類のパンが並べられています。ほんとに、どれにしようか迷っちゃう。一言でいえば、「パンの図書館」みたいな感じ。

こちらはわたしが本日、買ったパンたち。どれも愛おしい。

「セレアル」220円

基本ですね。シンプルながら、白ゴマ、ケシの実の香りが心地よいです。国産バゲットが白米なら、セレアルは五穀米ですね。森賀まりさんに〈春暁や色やはらかき五穀米〉という句があります。春の朝にぜひ食べたいパンのひとつ。オーブンで少し焼きを入れると、ほんのりとした甘さがさらに際立ちます。

「アールグレイのシャンピニオン」210円

「シャンピニオン」は、フランス語で「きのこ」を意味する言葉ですが、きのこは入っていません(笑)あくまで、かたちね。メタファーです。紅茶のパンです。この傘のところが、せんべいみたいにパリっとしていて美味しい。西村麒麟さんの句に〈空に飽き山に飽きたる茸売〉という句があります。でもこのパンは、飽きない。

「キャラメルチョコノアZ」350円

なんだかももクロみたいな名前ついてますが、「ノアゼット」は、フランス語で「ヘーゼルナッツ」。おやつに、軽食にもってこいですね。〈榛をこぼして早し初瀬川〉は、文化文政・天保期に活躍した玉石舘梅里の句。「榛」は「はしばみ」と読みます。ヘーゼルナッツは「セイヨウハシバミ」になる実のことです。あきらかに「最上川」のパロディですね(笑)

それでは最後に、わたくしのパン句を。

冬籠楽しまむビーバーみたいに  発酵

ビーバーって毎年11月から4月までの数ヶ月間、冬眠はせずに、狭い住居から一歩も出ずに数匹で暮らすんですよね。まさに「冬籠」なんですが、BEAVER BREADは、この小動物の蟄居のメタファーでもあるんでしょう。あまたのパンに囲まれる、幸せな冬ごもりです。

みなさんも、ぜひBEAVER BREAD、行ってみてください。(たぶん、わたしより)いい俳句ができると思います。

それでは、また次回お会いしましょう。つれづれなるままに。


店名 BEAVER BREAD
住所 東京都中央区東日本橋3-4-3
TEL 03-6661-7145
営業時間 8:00〜19:00(土・日曜日、祝日〜18:00)
定休日 月・火曜日


【執筆者プロフィール】
吉田発酵(よしだ・はっこう)
1983年生まれ。世田谷区在住。パンと俳句と日本酒をこよなく愛する。
好きなパンクは、ラモーンズ 『End of the Century』。


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

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