やゝ寒し閏遅れの今日の月 松藤夏山【季語=今日の月 (秋)】


やゝ寒し閏遅れの今日の月 

松藤夏山


このたび、「ハイクノミカタ」金曜の担当となりました。よろしくお願いします。

曜日は早いもの順だというので、すぐに手を挙げて選んだ。一番好きな曜日だし(もちろん、そのあとに土曜と日曜が続くからだけれど)、土日に動く私にとって、金曜に掲載されることが自分へのリマインドになるだろうと思われたからだ。一方で読んでくださるみなさんにとっても、金曜が来たことをお知らせできればいい。そんな句を選んでゆきたいと思う。

今日は金曜の上に満月、しかも中秋のそれである。ちなみに中秋の名月は昨日らしい。掲句の「今日の月」は「中秋の名月」の別称。めずらしい十月の中秋の名月/満月は数年に一度訪れる。今回の次は2025年らしい。5年後、どこにいてどのように月を眺めるのだろうか。

松藤夏山『夏山句集』は歴年でまとめられていて、これは昭和8年にある句。句集は昭和11年に夏山が病によって亡くなったのちに、俳友たちの手によって虚子選の句をまとめるかたちで虚子の序文を得て出版された。序文で虚子は「最も忠実な俳学徒であって、しかも最も忠実な私の所謂花鳥諷詠の信奉者であった」と追悼する。

その夏山のなかでは、「やゝ寒し」と始まる掲句は、微かな主観の滲む句。「やや寒」はそれ自体が季題ともなっているけれど、ここでは遅い十月の満月を見上げる本人の体感や、月そのものの様子、その空気感を全体としてあらわす。この年、1933年の中秋の満月は今年より3日遅い10月5日。毎年めぐり来る中秋の満月の、例年との違いとしての感慨だろう。やや寒ければ、なお空気も澄むだろう。澄めば月光も違うだろう。「やゝ寒し」と言って、この句に悲観的なところはあまり感じられない。すこしの常との違いを愉しんでいるようでもある。
今年も同じく十月の満月、街の灯も常より少ないだろう。どんな月が出るだろう。

(阪西敦子)



【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。

関連記事