酒足りてゐるか新米まだあるか
西村麒麟
巷は米不足である。先日、近所のスーパーへ買い物に行ったら、商品の無い棚があり、そこには「お米の入荷時期未定」と張り紙されていた。日頃、あまり米を食べない私は米不足をあまり気にしていなかったが、実際にスーパーで目の当たりにすると、急に米が恋しくなった。だいぶ昔の話だが、私が大学生のころに冷夏の不作を起因とした「平成の米騒動」が起こり、東南アジアの米を美味しく炊く方法が一時流行った。今回は後に「令和の米騒動」と呼ばれるだろうが、新米が流通すると解消されるとのことである。
酒足りてゐるか新米まだあるか 西村麒麟
この句を読んだとき、さだまさしの曲「案山子」を思い出した。
元気でいるか 街には慣れたか 友達出来たか
寂しかないか お金はあるか 今度いつ帰る
「案山子」は故郷にいる兄が都会に一人暮らしする弟を気遣う歌である。「か」のリズムが心地よく、相手を気遣う気持ちを疑問形で表現しているところが「案山子」と掲句に共通している。
掲句は、句集『鷗』の「麒麟」以前、つまり、俳句結社「麒麟」が立ち上がる前の句である。句集の巻末に結社「麒麟」の創刊が2023年とあるので、「麒麟」以前と言っても数年前の句も入るのだろう。掲句の「酒足りてゐるか新米まだあるか」は誰の発言だろうかと想像してみた。なんとなくだが、酒と新米を尋ねる人物は別のような気がする。たとえば、「酒足りてゐるか」は社会のストレスを気遣う父親、「新米まだあるか」は栄養や身体を気遣う母親など。この二人の何気ない日常の会話を句にしたのであればとてもおもしろい。
私事だが、昨年9月に他界した母親はさだまさしの大ファンだった。この時期に「案山子」を思い出したのも、なにかの縁かも知れない。
(塚本武州)
【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。国立市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。
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