今生のいまが倖せ衣被 鈴木真砂女【季語=衣被(秋)】


今生のいまが倖せ衣被

鈴木真砂女
句集『都鳥』より


わたくしごとで恐縮ながら・・・

10月8日、ついに祖母が満100歳を迎えました!

若い頃は比較的虚弱体質だったようだが、70歳を越えた頃から病気らしい病気はせず。

90歳になって肺炎球菌ワクチンを打った後から、なぜか風邪もひかなくなり。

この夏の猛暑で外に出られず若干弱ったものの、要支援1(介護保険の7段階で一番軽い)で、趣味は洗濯とアクリルタワシづくり。同じマンションに住む叔母が食事を届け、見守りをしてくれているお陰で、いまもひとり暮らしをしている。

100歳を越えた人のことを「センテナリアン」(1世紀を生きた人)というらしい。今年日本の100歳越えは9万5000人以上というから、まさに人生100年時代。

先日テレビを観ていたら、長寿の秘訣は性格的な部分も大きく、 ①社交的 ②好奇心旺盛 ③良い習慣をもっている とのこと。確かに祖母にも当てはまる!

あと元気で100歳を迎えている人の特徴は、「今が一番幸せ」と思いながら生きていることらしい。

ということで、今回はこの有名な一句。

作者の鈴木真砂女(1906年11月24日 – 2003年3月14日)については、もうここに書く必要もないだろう。瀬戸内寂聴の小説『いよよ華やぐ』のモデルともなった人物である。

真砂女さんは100歳には届かなったけれど、享年96歳ということで十分にご長寿。きっと掲句のように「今が一番倖せ」と思いながら生き切られたと信じたい。

掲句、「今生の」の前には「私の人生、あんなこともこんなこともいろいろあって大変な思いをたくさんしたけれど・・・でもね」という言葉が省略されている。

その省略を活かして、さらりと句に仕立ててしまったのが真砂女さんの凄いところ。

そして何よりも良いのが、この「衣被」という季語だ。ほっくりとした温かみと味があり、収まりが良い。高級料理ではなく、素朴な衣被と取り合わせて「いまが倖せ」と言える庶民性がまた共感を呼ぶのだろう。

私も里芋大好き。芋煮も毎年作るが、やっぱり素材そのものを味わえるのは衣被。ころころとした可愛い子芋を見かけると買ってきて、蒸し器でたっぷり蒸し上げる。「熱い、熱い!」と言いながら皮をつるんと剝いて、芥子醤油で食べるのが、やっぱり一番かな。

食べながら、必ず掲句を思い出す。

そしていつも誰かが思い出してくれるような句を、私もいつか作りたいなぁと願う。

それにはまだまだ人生経験を積まなくちゃ・・・

さて、祖母は100歳になった日、「何にもしてないけど100歳になっちゃった」と電話口で言っていた。なんだか可愛くて、おかしくて、ちょっと切ない。

大正13年生まれ、乙女の頃は戦争で、夫は早く亡くなって・・・祖母の人生もいろいろあったはずだが、昔のことは見事に何も語らない。墓場まで持っていくつもりらしいから聞かないけれど。

いつか来るその日まで、楽しくやろうよ、おばあちゃん。

黒澤麻生子


【執筆者プロフィール】
黒澤麻生子(くろさわ・まきこ)
1972年千葉県生まれ。1999年「未来図」入会。2004年未来図新人賞受賞。2005年「未来図」同人。俳人協会会員。2009年「秋麗」創刊に参加。2017年刊行『金魚玉』(ふらんす堂)により第41回俳人協会新人賞・第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。2021年未来図後継誌「磁石」創刊に参加。現役ケアマネジャー。


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



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