【春の季語=初春(2月)】山笑う
春の木々や草花が芽吹きはじめるダイナミズムを思わせる季語。草木だけではなく、冬眠を終えた動物や虫たちも目覚め、また人間も鳥たちも山野を行き交うようなイメージがある。「山滴る」「山粧ふ」「山眠る」と四対の季語である。
由来は、中国の北宋の画家「郭熙(かくき)」の漢詩「春山淡治にして笑ふが如く」。「淡治」とは「うっすらと艶めく」の意。北宋の画は「北画」とも呼ばれるが、これは宮廷絵画の系統に属する流派で、五代十国の山水画、花鳥画をさらに洗練させたものである。
子規に〈故郷やどちらを見ても山笑ふ〉があるが、江戸期に用例はなく、おそらく明治の初等・中等教育で使われて普及した近代季語。井上井月に〈山笑ふ日や放れ家の小酒盛〉。
歴史的仮名遣いは「山笑ふ」。
【山笑ふ(上五)】
山笑ふ若草山もそれなりに 伊藤伊那男
山笑ふ土偶のやうに妊婦われ 仙田洋子
【山笑ふ(中七)】
炭砿の地獄の山も笑ひけり 岡本綺堂
【山笑ふ(下五)】
葬送の鈸や太鼓や山笑ふ 小川軽舟