
春の雨鳩の背中にぽつと跳ね
上野章子
春の雨には、どこか明るさが伴うように感じられます。空の光であり、雨粒の軽さであり、それを受ける心の軽さでもあるのでしょう。
掲句では、その春の雨が鳩の背中に触れ、「ぽつと跳ね」ます。
雨は本来、地に染み込み、葉を伝い、あるいは水面に波紋を広げるものですが、ここではいったん触れながら、受け入れられずに弾かれています。
鳩の背中は柔らかく見えながら、水を通さない面でもあります。そのため春の雨は、染み込むこともなく、「跳ねる」というかたちで応答します。「ぽつと」という措辞は、その一瞬の出来事を、確かな接触としてとどめています。
明るく優しいはずの春の雨であっても、鳩はそのすべてを受け入れるわけではありません。
ここにあるのは、触れていながら、完全には交わらない関係です。そのわずかな隔たりが、「ぽつと跳ね」という一語に結晶しているように思われます。
上野章子 句集『六女』(1986年)永田書房 所収
(菅谷糸)
【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。

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