かなしきかな性病院の煙出 鈴木六林男


かなしきかな性病院の煙出

鈴木六林男


総武線で大久保を通過する時、車窓から「性病科」という看板が見える。とても目立つ看板。ネオンだから夜はさらに目立つ。院生の頃も、働いている頃も、疲れて帰る車窓に見える。微妙な気持ちになる。一説によれば「性病科」の看板は派手らしい。微妙な気持ちになった。

「かなしきかな」と「さびしきかな」では、ペーソスの質が変わってくる。後者だとペーソスがあっさり流れすぎる感じがある。「かなしきかな」は、ともすれば力技な感じがするのだが、やはりそう述べる事で「煙出」という言葉の暗さが深くみえてくるように思う。

(安里琉太)


【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞



安里琉太のバックナンバー】

>>〔15〕こういうひとも長渕剛を聴くのかと勉強になるすごい音漏れ 斉藤斎藤
>>〔14〕初夢にドームがありぬあとは忘れ 加倉井秋を
>>〔13〕氷上の暮色ひしめく風の中    廣瀬直人
>>〔12〕旗のごとなびく冬日をふと見たり 高浜虚子
>>〔11〕休みの日晝まで霜を見てゐたり  永田耕衣
>>〔10〕目薬の看板の目はどちらの目 古今亭志ん生
>>〔9〕こぼれたるミルクをしんとぬぐふとき天上天下花野なるべし 水原紫苑
>>〔8〕短日のかかるところにふとをりて  清崎敏郎
>>〔7〕GAFA世界わがバ美肉のウマ逃げよ  関悦史
>>〔6〕生きるの大好き冬のはじめが春に似て 池田澄子
>>〔5〕青年鹿を愛せり嵐の斜面にて  金子兜太
>>〔4〕ここまでは来たよとモアイ置いていく 大川博幸
>>〔3〕昼ごろより時の感じ既に無くなりて樹立のなかに歩みをとどむ 佐藤佐太郎
>>〔2〕魚卵たべ九月些か悔いありぬ  八田木枯
>>〔1〕松風や俎に置く落霜紅      森澄雄


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