【秋の季語】芭蕉/芭蕉葉、芭蕉林

【秋の季語=初秋(8月)】芭蕉/芭蕉葉、芭蕉林

【解説】えっ、松尾芭蕉って俳句の季語なの? と思った方へ。ちがいます。季語としての芭蕉は、バショウ科の熱帯性植物。バナナの葉のようなアレです。

でも、もちろん松尾芭蕉とこの植物は無関係ではありません。関係ないどころか、俳号「芭蕉」の由来は、当初は「草庵」と呼んでいた自宅(江戸深川に構えた庵)に植えた芭蕉の木が、たいそう立派に生長して名物となったことから、弟子達がこの庵を「芭蕉庵」と呼ぶようになったことがきっかけ。

芭蕉葉を柱に懸けん庵の月 芭蕉

天和2年(1682年)、師匠は戯れに自らを「芭蕉」と号するようにもなりました。そんなわけで、江東区の芭蕉記念館の正面には、芭蕉の木も植えられています(下の写真です)。

芭蕉は、なんといっても日本には珍しい、大きな葉っぱが特徴です。葉っぱの繊維からは「芭蕉布(ばしょうふ)」を作り、幹の中の繊維から「芭蕉糸(ばしょういと)」を作ります。優秀。

江戸時代、長崎にいたシーボルトは、芭蕉を「ムサ・バショウ」という学名で発表しました。「ムサ」とはバナナの仲間を意味する学名で、その後、イギリスで芭蕉は、ジャパニーズ・バナナと呼んでいた。実際に、夏になるとバナナのような実と花をつけます。

季語としては、初夏の若葉が萌え出る様子を「玉解く芭蕉」と呼び、成長した葉は、秋風にゆったり揺られるイメージとともに、秋の季語とされています。しかし風雨にさらされると、葉には切れ込みが簡単に入って「破れて」しまいます。これを「破芭蕉」と呼び、晩秋の季語としています。同様の趣のある季語としては、「破蓮」がありますわな。

芭蕉の名句はいろいろありますが、管理人の推しはたとえばこれ。

芭蕉葉の雨音の又かはりけり 松本たかし

芭蕉が雨に破れていくようすが、「音」から想像されます。

【関連季語】玉解く芭蕉(夏)、水芭蕉(夏)、破芭蕉(秋)


【芭蕉(上五)】
芭蕉うつ風があくびを奪ひ去る 水原秋櫻子

【芭蕉(中七)】
曙や芭蕉をはしる露の音 蝶夢「草根発句集」
古池や芭蕉飛こむ水の音 仙厓

芭蕉(下五)】
この寺は庭一盃の芭蕉かな 芭蕉「俳諧曾我」
露はれて露のながるるばせをかな 白雄「白雄句集」
野鳥の上手にとまるばせをかな 一茶「九番日記」
さらさらと白雲渡る芭蕉かな 正岡子規「新俳句」
したゝかに雨だれ落つる芭蕉かな 内藤鳴雪「春夏秋冬」
丸き窓にともし火うつる芭蕉かな 高浜虚子
舷のごとくに濡れし芭蕉かな 川端茅舎「川端茅舎句集」
生まれし子いまはじめての芭蕉かな 田中裕明
幹打てば水の音して芭蕉かな 長谷川櫂「蓬莱」
あさあさと空の波うつ芭蕉かな 山西雅子

【芭蕉葉(上五)】
芭蕉葉の雨音の又かはりけり 松本たかし
芭蕉葉やまぶしくも日のありどころ 高橋淡路女
芭蕉葉になほ残る色や脈を走る 高濱年尾 年尾句集
芭蕉葉に心危く幾日ある 千代田葛彦 旅人木
芭蕉葉の吹かれくつがへらんとせし 清崎敏郎
芭蕉葉にぷすと針金突き刺さり 岸本尚毅 鶏頭

【芭蕉葉(中七)】
一本の芭蕉葉夜をうごくかな 小池文子

【芭蕉の葉(上五)】
芭蕉の葉ばさりばさりと翻る 長谷川櫂「蓬莱」

【芭蕉林(上五)】
芭蕉林雨夜ながらの月明り 村上鬼城
芭蕉林ゆき太陽を忘れけり 野見山朱鳥
芭蕉林風に驚き易くあり 山田弘子

【芭蕉林(下五)】
いみじくも湧ける水かな芭蕉林 森田峠

【その他の季語と】
芭蕉葉を尺取むしの歩みかな 末路 古句を観る(柴田宵曲)
芭蕉葉にかくれて涼し夏の月 松藤夏山 夏山句集
芭蕉葉にちりたまりたる枯葉かな 西山泊雲 泊雲句集
芭蕉葉の縁が焦げたる残暑かな 西山泊雲 泊雲句集
木枯やすかと芭蕉葉切りすてん 渡辺水巴
芭蕉葉に二重写しの守宮かな 阿波野青畝
芭蕉葉にはつきり一つ蝸牛 京極杞陽 くくたち下巻
芭蕉葉の裏に表に蝸牛 京極杞陽 くくたち下巻
月光の露打のべし芭蕉かな 川端茅舎
中空を芭蕉葉飛べる野分中 川端茅舎
芭蕉葉や池にひたせる狩ごろも 飯田蛇笏
月代や芭蕉林に砧打つ 沢木欣一
芭蕉葉の大かつぎ出づ秋の昼 宇佐美魚目
芭蕉葉に月光滝となりて落つ 岡田日郎


→ 「破芭蕉」の例句はこちらから(作成中)

→ 「破蓮」の例句はこちらから(作成中)

→ 「玉解く芭蕉」の例句はこちらから(作成中)

→ 「水芭蕉」の例句はこちらから(作成中)


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