神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第30回】今泉礼奈

学生バイト

今泉礼奈(「南風」同人)

銀漢亭を初めて訪れたのは、大学3年生の夏。村上鞆彦がくると聞いて、密かにファンだったのでどんな人か見に行った。

2回目は、その1ヶ月後。店内の壁に貼られていたパーティーに参加するため。受付で会費を払っていると、木曜日の夜が空いているかどうか聞かれた。それまで木曜日のカウンターに立っていた天野小石さんの後釜を探していたらしく、即採用が決まった。

3回目は、その1~2週間後。アルバイトで。

それから大学を卒業するまでの1年半、私は(ほぼ)毎週木曜日の夜、銀漢亭のカウンターに立った。

振り返ると、たのしい思い出しかない。

(右が今泉礼奈さん、左は伊藤伊那男亭主)

開店と同時にやってくる「お地蔵さん」。白ワインを飲みだすと立ったまま眠るので、伊那男さんは裏で「お地蔵さん」と呼んでいた。私はお地蔵さんが本当に「お地蔵さん」になるのがいつも密かな楽しみだった。

季節の新メニューが入ると、早い時間にいらっしゃる小滝肇さんに注文してもらって、一口いや二口、いやそれ以上、従業員の味見だと言って笑いながら食べさせてもらった。

句会前には、どの句を出すか迷う人がカウンターに来た。ビールを一杯飲む人、お酒は句会が終わってからと決めている人。句会の二次会でお店に戻ってきたときに、結果を聞くのが楽しみだった。

俳句に興味がある、俳句を始めたいと銀漢亭に訪れる人もいた。伊那男さんが「銀漢」について一通り説明すると、「銀漢」のお姉さま方がその人を取り囲んだ。

銀漢亭には、きわどいメイド服があった。洗礼行事のように、私も着せられ、谷口いづみさんに厚化粧(口元のホクロ付き)をしてもらった。伊那男さんに一番誉めてもらったのは、この時かもしれない…。

海鞘を初めて食べた。いなごの佃煮を初めて食べた。

「迎え酒」という言葉あることを知った。

二日酔いにはカレーが効くことを知った。

銀漢亭のお客さんは、大学生の私から見ると、皆さんずいぶん大人だったが、お酒が入るとずいぶん子どもになった。本気で歌って本気で踊って、本気で笑っていた。本気であることを誰も咎めず、やっぱり本気で笑っていた。

大学生のうちに、大人の本気を見せてもらえた私は、幸せだったと思う。

私も本気の大人になりますよ。

(これが噂のきわどい?メイド服。本人の許可なく掲載しております)


【執筆者プロフィール】
今泉礼奈(いまいずみ・れな)
平成6年、愛媛県松山市生まれ。「南風」同人。銀漢亭バイトを経て、現在ワーキングママ。



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