夕づつにまつ毛澄みゆく冬よ来よ
千代田葛彦
「夕づつ」は漢字で書くと「夕星」。
夕方になると西の空にいち早く点る大きな星で、宵の明星とも言い、金星のことを指す。
金星の最大光度は一等星の数十倍もあるのだそうだ。地球のすぐ近くにある惑星とはいえ、それだけの明るさを持つがゆえに、あれほど大きく輝いて見えるのだろう。
季節は今、秋から冬へ移り変わろうとしている。
夕星を見上げる眼差しは、すでに冬の気配をとらえて覚醒してゆくかのようだ。
「冬よ来よ」――。
冬を待つ心とは、やはり強き心であろう。
夕星、まつ毛、冬。
句に描かれた清澄な空気が、どことなくメルヘンの世界をも感じさせてくれる。
ふと、藤代清治の生み出す影絵の少女が目に浮かんだ。
(日下野由季)
【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』、『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。