アトリエの裸婦春風をまとひけり 蜂谷一人【季語=春風(春)】

アトリエの裸婦春風をまとひけり

蜂谷一人

 私の祖父は画家で、〈アトリエ〉は幼いころから身近な存在でした。同じ市内に住んでいたので、祖父の家には毎週のように遊びに行っていて、時間になると「おじいちゃんを呼んで来て」と言われた私が、中庭を挟んだアトリエに向かい「おじーちゃん、ご飯だよ」と呼びに行きました。懐かしいシーンと共に絵の具の匂いが呼び起こされます。
 掲句は「句集 四神」(朔出版・2024年刊)より。祖父の残した絵画に、裸婦像が無くはないのですが、祖父が裸婦を描いているのは見たことがありません。とはいえ、絵描きを志す人のほとんどはヌードデッサンをしているはず。
 未経験者からしてみると、異性の裸体を前に‘エッチな気分’にはならないにしても「モデルさん恥ずかしくないのかな、目があったら気まずいな、寒くないのかな」などと考えて、平静に絵を描き続けるのはなかなか難しそうです。
 この句の裸婦は春風の吹き込むアトリエに立っています。〈まとひけり〉と言ったことで、春風と春の光が柔らかなベールとなって彼女を包んでいるのが見えます。まさに‘絵画的’な一句。でも、見えない風を見せるテクニックは絵画より俳句の方が向いています。
作者の蜂谷一人さんも「絵を描く人」。写実とメルヘンが混ざった楽しい世界。この「句集 四神」も一人さんが手掛けた作品がパッチワークのようにカバーを彩っています。
 私の祖父が俳句をたしなんでいたことを、私が俳句始めてから知りました。遺された日記やノートにいくつかの句を見つけることもできます。
「絵を描くこと」と「俳句を作ること」、ふたつの共通点やものの見方を一人さんにいつかじっくり聞いてみたいです。

白井飛露



【執筆者プロフィール】
白井飛露(しらい・ひろ) (本名・聡子)
1977年、千葉県野田市生まれ。流山市在住。2010年「かぞの会」参加、2012年「大倉句会」参加。「玉藻」「銀漢」同人。俳人協会会員。
旅行雑誌の編集プロダクション、ゴルフ雑誌出版社勤務などを経て、(株)ウインダムにて展覧会や美術展のPRに携わる。一般社団法人10000日記念日代表。
2025年11月に初句集『輪郭』(朔出版)上梓。



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