籐椅子飴色何々婚に関係なし 鈴木榮子【季語=籐椅子(夏)】

籐椅子飴色何々婚に関係なし  鈴木榮子

 作者は、昭和4年東京都生れ。昭和42年、「春燈」に入会し安住敦に師事。昭和47年、第18回角川俳句賞受賞。昭和53年、第一句集『鳥獣戯画』にて第2回俳人協会新人賞受賞。平成15年成瀬櫻桃子より「春燈」を継承し、主宰を務めた。句集に『鳥獣戯画』『白鳥』『薔薇枕』『繭玉』がある。

 俳句結社「春燈」の創刊主宰久保田万太郎の江戸情緒と余情のある詠みぶりを継承しつつ、独特の視点と説得力のある表現で新しみを模索した。

  浅草やをとこも刈つて祭髪

  酉の市一筋裏を戻りけり

  幕の内頼むも手順初芝居

  初場所や行司にもある初土俵

 鳥獣戯画のような不思議な世界の中に身を置いたかと思えば、現実的な下町の景を面白く描いた。

  鳥獣の国や木の実は木の下に

  萩すすき狐はひよつと振り向くもの

  鳥羽僧正湯豆腐食べに下りけり

  草笛は夢売るひとが吹くならむ

  酸漿の秘術尽してほぐさるる

  樟脳舟のエンジン故障なかりけり

 母の句は、同じ鈴木姓である「春燈」の大先輩鈴木真砂女さんのことかと勘違いされることも多かったとか。母の句もまた情感がある。

  釣忍母在る限り足袋干され

  襖閉めては母さびしとよ灯火親し

  いつも母が栗をもたせて呉れる旅

  共に剥きて母の蜜柑の方が甘し

 真砂女のような激しい恋をしたのかどうかは分からないが、淋しさをほのかに滲ませた孤高の恋を描く。

  花の下片手あづけて片手冷ゆ

  春雷を殺し文句のやうに聴く

  香水は一滴愛は小出しにせず 

  頭文字あるハンケチは返さねば

  ソーダ水待たされてゐて疑はず

  プールで遇ひ茶房で別れしだけのこと

  秋扇置く短剣を置くやうに

  狐は一夫一婦わが恋知らるるな

  鴛鴦二つづつ組ませてひとつわれ残る

  ポインセチア独りになれ過ぎてはならず

 久女に憧れ、文学に憧れ、女流俳人としての地位を築いた。

  久女にはなれず薔薇咲き薔薇枕

  花衣久女がほどの紐締めて

  一葉が桃水訪へり春の雪

  十六夜のいざよひながら上りけり

  文芸に近道はなし浮いてこい

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